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「東部地区に連れて行って」
あのセヌエフとの大きな事件が終わってからひと月が経ったときのこと。
久しぶりにルリアのもとに顔を出したテキスに、真っ先に王女が言った言葉がこれだった。
「どうした?」
突然の王女の言葉を不思議に思いながら、テキスは王女の眉間の皺をぴんと人差し指ではじく。
「いた……」
「んなしかめっ面してると、王子みたくなるぜ?」
「――そんなこと…ないわよ」
ルリアははじかれた眉間をなでながら、テキスを上目遣いに見る。
「まずは理由だな。可否はそのあとだ」
頭っから「だめ」とは、決して言わない。幼い王女の言うことでも、きちんと理由を聞いてから判断を下してくれる。テキスは昔からそうだった。だからこそ、こうしてルリアも多少無茶なことでも、テキスになら相談する。
テキス曰く、
「そうでもしないと、王女は勝手に突っ走る。だったら、きちんと話を聞いたほうが、後々面倒なことにならないからなー」
だそうだが、このことはルリアは知らない。
「で?」
問われてルリアは理由を告げる。それを聞いて、テキスは驚いたように目を見開いたが、直にすっと目を細めた。そうして、わしわしとルリアの頭をなでたのであった。
ルリアたちが住まう国の中心部から東部地区まで、馬を飛ばして数時間。
かつてセヌエフたちが拠点を置いていた地点にたどり着く。
ルリアはテキスの手を借りて、大地に降り立つ。
「ここが……」
「東部地区だな」
――何もない。
荒れ果てた大地がそこには広がっている。
中心部とはまったく異なる風景がそこには広がっていた。
ルリアとて東部地区のことを知らないわけではない。幾度となく話には聞いていた。
緑が育たず、厳しい環境であると。ゆえに、ここに住む人はほとんどいない。
「ここに……彼らはいたのよね」
ルリアが歩くたびに、干からびた大地から砂が舞う。
きっとここにも昔は豊かな緑があったはずだ。それをここまでしてしまったのは、自分たち人間に他ならない。
そして、今、目の前に広がる光景は、このリクウェアの外の国では当たり前のものだと言う。
ここに集っていた東部地区の者たちはそういった外から来た者たちが主だった。
彼らはここで何を思っていただろう――。
――私、見ておきたい。あの人たちがいた場所を。心に刻んでおきたいの――
ルリアは瞳を閉じる。
ひょおおと悲しげに風が吹き抜けていく。
すでに春は来ているのに、ここに吹く風はまるで冬のもののように冷たく感じるのはやはり、この光景のせいだろうか。
「王女!」
不意に呼ばれて振り返ると、テキスが手招きをしているのが見えた。
「なあに?」
「ほら」
テキスが指差した先には、小さな緑が大地から芽を出していた。
よく見ればちらほらと新芽が必死で顔を覗かせている。
ルリアはかがみこみ、新しい命を愛しげに両手でそっと包み込む。
こんなにも荒れ果てた大地でですら、こうして一生懸命新しい息吹が芽吹いている。
「決めた!」
ルリアは勢いよく立ち上がる。
「私、ここを緑でいっぱいにするわ」
突然の王女の宣言に、テキスはあんぐりと口をあける。
「だって、やっぱり緑がないとだめなんだもの。人が生きていくには」
それに、とルリアは空を仰ぐ。
ここを緑でいっぱいにすれば、きっとセヌエフもトゥティノもエビドュも――満足してくれるはず。
彼らの想いが強く残されているこの大地を緑で埋め尽くそう。
彼らが求めていた夢を現実のものとしよう。
そう決意した王女の横を風が駆け抜けていく。その風は先ほどとは打って変わって、穏やかで優しく感じた――…。
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久々に『message』の登場人物で小説を書かせていただきましたー。
あー、やっぱり書きやすいわ、この子たち(笑)。
「春らしい」というお題をいただいていたのに、果たして春らしくなったのかどうか…(^^ゞ
しかも、すでに季節は初夏。
本当にお待たせして申し訳なかったです!
2007/5/6 南斗すばる
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