終章
三人はトルキアの北の国境に来ていた。
昼前から降り続いていた雨も今では上がっていた。雲間から青い空が顔を覗かせている。横を駆け抜けていく風も、その冷たさの中に、春を感じさせるそんな季節になっていた。
クイントは前方を見つめた。
一歩踏み出せば、そこは北の隣国ルメシカになる。長い年月、トルキアと争っていた国の一つだ。
互いに武器を手に、憎しみ合い、殺し合い、そして、ともに滅びの道を辿った。
だが、こうしてルメシカを目の前にすると、トルキアとは何も変わりはしない。
同じ大地が続いている。
同じ人間が住んでいる。
なのに、自分たちは──
クイントは振り返る。
最後にもう一度故郷の姿を目に焼き付ける。
続いてタキトに目を向けた。
三日前の答えを聞くために。
「オレは──残る。ここに」
クイントは一瞬目を見開いたあと、それでも深く頷いた。
いつか出会った老人に言い放ったタキトの言葉。──「大地はおれたちと共に生きる」
きっと彼ならそうするだろうと、心の中では分かっていた。
彼はこの大地と共に生きる道を選んだ。新天地を求めるのではなく、自分が生まれ育ったこの地を。自分を育んでくれた者たちが眠るこの地を。
「ここは、おれにまかせろ。お前は自分の願いを叶えるんだぞ。絶対な」
「わかった」
タキトはにっと笑うと、右手をかかげた。クイントも同様に右手をかかげ、そしてタキトの右手をパシッと叩く。
「死ぬなよ」
「お前もな」
タキトはシスヤの頭をくしゃっとなでた。
「クイントを頼むな」
うん、とシスヤは力強く頷いた。
別れは言わない。
そして、二人は歩きだす。
二度とこの地に帰ることはないだろう。
そして、友とも二度と会うことはできないだろう。
もう二度と──
だが、二人は決して振り返りはしなかった。
リクウェア──夢の国へ向けて二人は歩きだす。
願いを叶えるために。
愛しい者たちの想いを叶えるために。
行こう。
この道を進もう。
──いつかきっとたどりつけると信じて。
家族のために、そして多くの癒されない魂のために。
平和な国を求めて。
そこに行けば、きっとわかる。
自分たちに欠けていたものが。
自分たちの国に戦があった理由が。
どうして自分たちは幸せになれなかったのか。
どうすればみんなが幸せに生きていけるのか。
きっときっとわかるはず──
空では大きな虹が彼らの未来を祈るかのように美しく輝いていた…。 |