蒼穹への扉
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虹の彼方へ
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 おれには分からない、とクイントは繰り返した。
 ヒュホラはあの後、自分が見聞きした全てのことをクイントたちに教えてくれた。
 あの夜のことを──。
 ドーンという激しい音と光の後、首都は炎に包まれた。炎は全てを焼き尽くすまで燃えつづけたという。
 あらゆるものを焼き、火が消えたのは、それから三日後のことだった。
 もう、首都を中心として三十キロ付近あたりまで、今では何も残ってはいない。人も、建物も、木々も。何もかもが消えてしまった。
 原因は分からない。一時期は、敵の襲撃だったという噂も流れたが、やがてその噂はさらに衝撃的な噂によってかき消された。
 あの光と音が襲ったのは、何もトルキアに限って起こったことではないというのだ。隣国のルメシカでも、そして周辺の諸国でも同様のことが起こったというのだった。
「──行くしかないだろう」
 クイントは寝返りをうつ。
「行って、確かめるしかない」
「そう…だな…」
 行って、自分の目で確かめるしかない──。
 静かに目を閉じようとしたその時だった。
 激しい震動がクイントたちを襲った。
 ドーンと腹に響く音。そして、眩しい光。
「なんだっ」
 がばっと飛び起きる。
 まさか、まさか…。
 ドンドンと激しく扉を叩く音がし、続いてヒュホラが飛び込んできた。
「みんな、起きてるかっ」
「ヒュホラさんっ、何がっ…」
「そんなことは後だ、早く荷物を持って外へ出ろっ」
 三人をたたき起こし、外へ引っ張りだす。
 四人が宿を飛び出した直後に、宿が炎に包まれた。
 いや、宿だけではない。辺り一面が炎に包まれていた。
 真っ赤な真っ赤な炎……。
 その中で、クイントは聞いた――

――焼けろ。すべてを焼き尽くせ……。
  この世のすべてのものを焼き尽くせ――

 低い声……深く深く心の底に響く声。

  世界のすべてを呪うかのような声。
 その声に呼応するかのうように炎が空高く渦巻き、まるで生きているかのようにあたりを包む。
 逃げまどう人々であたりは騒然としていた。
 誰もが我を失い、ただ闇雲に逃げている。
 どちらに行けばよいのかも分からずに、ただただ逃げ回る。
声

「うわっ」
 馬車が目の前をガラガラと音を立てて横切る。  思わず後ろに退いたが、ヒュホラの姿が馬車の向こう側に消えてしまった。
 直後、炎がヒュホラと三人を隔てる。
「ヒュホラさんっ」
 シスヤは炎に向かって名を叫ぶ。
「いいか、ここから早く逃げろっ」
 炎の向こう側からヒュホラの声が聞こえた。
「絶対生き延びろっ」
「ヒュホラさんっ」
 ぐっと、クイントはシスヤの手を握った。
「クイント、ヒュホラさんはっ」
「大丈夫だ。ヒュホラさんなら、きっと大丈夫だからっ」
 ぐいとシスヤの腕を引く。
「行こう」
 三人は首都に向かって走り出した。
 いまさら首都に向かっても何もないのに。
 それでも三人は当初の目的を果たすべく首都――いや、もと首都であった都市跡へと向かうのだった。


 全てを燃やし尽くした炎が消えたのは、それから三日後のことだった。
 クイントたちはヒュホラに言われた通り、首都へ向かったものの、やはりヒュホラのことが気になり、首都まで行かずに、宿場街へと戻って来た。
「──」
 呆然と三人は目の前の景色を見つめた。
 そこには信じられぬ光景が広がっていた。
 全てのものがなくなっていた。
 街も、村も。何もかもが元の姿を失っていた。
 人の姿も見えない。
 残っているのは、瓦礫の山、そして焼け崩れた家々──。
 一体、何だったんだ。あの時起こったことは一体何だったんだ?
 激しい震動、地響き、そして光…。
 首都を襲ったとヒュホラが言ったものと同じもの──。

──この国はやがて滅びる──

 岩山で出会った老人が告げたことがクイントの心を駆け抜けた。
 あの老人の言った通りのこととなってしまった…。
「こんな…」

──人が犯した罪は許されるものではない。やがて報いはくる──

 老人の言った言葉が事実だとしたら。その言葉のままの意味だとしたら。
 あの光は、震動は──
(おれたち自身の心のうち…?)
 自分の幸せを奪った相手への憎しみ。
 全てを壊してやる。すべてを燃やし、この世から消してやる。自分の大切な物を壊したもの全てを。
 クイントは目を伏せる。
 何のために、おれたちは戦を続けた。
 豊かな国を築くため?よりよい生活をするため?
 こんな結果を望んで、おれたちは戦い続けたんじゃない。

こんなことを望んだんじゃない! 「こんな…こんなふうになってしまったら、意味がないじゃないかっ」
 タキトは吐き捨てる。
「おれたちは、こんな未来を望んだんじゃないっ」
 こんな未来の為に、命をかけたんじゃない。アネットは、母は死んだんじゃない。
 おれたちは、こんなふうになるために生きていたんじゃない。
 三人の叫びは、冷たい空気に吸い込まれていった…。
 
 
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