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クイントは耳をそばだて、ゆっくりともう一度周りを見回した。そうして、大きな岩と岩の間で目を止めた。
「いる…」
シスヤにさがるように指示を出し、自分は用心深く一歩ずつ近づいていく。
「…てくれえ」
「?」
さらに近づく。
「──助けてくれえ…」
間延びした声が岩の間から聞こえる。クイントは警戒しつつも、その声の元へと近寄った。
「ああ、助かったあ…。ぼうず、すまないが助けてくれ」
一人の男がクイントに気づき、顔を上げて懇願した。
男は、右足を巨岩に挟まれ、身動きが取れなくなっているようであった。傍らに大きな荷物を置き、男は苦しそうにクイントに訴えつづける。
こんなところに自分たち以外に人がいる。それだけでも十分怪しい。これは、不用意に助けてもいいものだろうか、と思案するクイントの後ろから、ひょいっとシスヤとタキトが顔を覗かせた。
「うわっ、痛そ」
男の足を見てシスヤは顔をしかめた。
「助けてあげないの?」
「──…」
タキトの顔を見る。
タキトはクイントが何を考えているのか分かっていた。もし、ここでこの男を助け、その結果悪いことが起こらないとは言えない。もし、男が自分たちに仇なす存在だったとしたらどうなる?それを考えてクイントは躊躇っているのだ。
だが、それと同時にタキトはクイントの性格もよく分かっているつもりだった。躊躇っていても、このまま男を見捨てることはクイントにはできない。たとえ、その後自分たちに災いがふりかかってこようとも、クイントはこの男を助けてしまうだろう。
「助けよう」
クイントが判断を下す前に、タキトがそう言った。
クイントが判断を下すのを待つのはたやすい。だが、その結果起こったことに、後で責任をクイントが全て感じてしまうのを避けたかった。ただでさえクイントは人一倍責任感が強い。それに、母ニシアとアネットを失って以来、常にその責任を感じて自分自身を責めつづけている今は、特にそういった状況を避けたかった。
「棒っ」
シスヤが一本の太い木の棒を見つけてきた。長さはちょうど一メートルちょいくらい。使うには手頃な長さだろう。
タキトはそれを受け取ると、ぐっと、岩の下へ棒の先を入れた。
「せーのっ」
三人はタキトの掛け声と共に、その棒に体重を掛ける。
岩が少しだけ動いた。
「せーのっ」
何度目かの掛け声の後、ガラッと音を立て、岩が転がった。
男はようやく岩の重みから足を解放することができ、ふうと大きく息をついた。足をさすり、よかったよかったと呟いている。
「大丈夫か、おっさん」 |