蒼穹への扉
Novel
  message
虹の彼方へ
 ・あらすじ
 ・目次
さくら咲くころ
時のある場所
時のある場所2
失くした時代
わたるとり
こころのはざまで
恐怖の行方
墓守
かぞへうた
 Chara
  登場人物紹介
 Side
  座談会など
 Gallery
  らくがき&Flash
 Thanks
  いただきもの&差し上げたもの
 Diary
 BBS
 Link

 


 
BACK
 

「ちょっと…待ったあ」
 ふうとタキトが一息いれる。
「なんだ。もうへたばったのか」
「おれは老人なんだ。もう少し労ってくれたっていいじゃないかあっ」
「誰が老人?」
 しかたがない、とクイントは背負っていた荷物を下ろした。
「こんなにお前が、体力がないとは知らなかったぞ」
「お前が異常なんだ」
 あつーっと服をぱたぱたと扇ぐ。こうすると、風が入ってきて気持ちがいい。
 ここはシクサの村から、北東へ五十キロほど行った場所である。三人は村を出たあと、この国境沿いにある岩山へと向かった。近くに村はなく、ただ大小の岩が無数に転がっている。
 クイントは心の中で、アネットに誓ったことを二人には話していなかった。当然、二人はクイントが、リクウェアに行くと決心したことなど、露ほどにも知らない。
 今はそれでいいとクイントは思っていた。
 今はまだ言うべきではない、と。
 リクウェアのことがはっきりとわかるまでは、言うべきことではないと考えていたのである。とりあえず、今自分がすることは、自分たちの身を守ることだ。リクウェアのことは少しずつ考えていけばいい。
 街や村では、いつ襲われるか分からなかった。三人はなるべく人がいない方へいない方へと足を向けた。そうして行き着いた先がここ、というわけだ。
 この岩山なら、好き好んで人が来ることもあるまい。
 三人は自分たちの住処にできそうな場所を探して歩き回った。だが、思ったようにいい場所は見つからなかった。
「水場が近くて、食い物があって、人に見つかる心配がないところ、ねえ…」
 ああ、と大げさにため息をつく。
「そんな場所、見つかるんでしょうかねえ」
 ごくりと水筒の水をシスヤは飲みながら、上目遣いでタキトを見た。
「よく、しゃべるね」
「おれがしゃべることを止めたら、バランスが取れなくなる」
 タキトはしらっと言った。
「バランス?」
「こいつはもともとあまりしゃべらないだろ。なのに、おれまでこいつみたいにぶすーっとしていたら、お先真っ暗って感じじゃないか」
 なるほど、とぽんと手のひらを叩く。
 ぎろり、とクイントが言いたい放題の二人を睨んだ。
「ほらな、こいつは全て目で会話しようとするんだ。だから、おれがこいつの分までしゃべる羽目になる」
「そんなにしゃべるのが嫌だったら、口を閉じていればいいだろう」
「お前みたいに黙りこくったおれなんて、おれじゃないっ」
「──要するに、タキトはしゃべっていないと自分が安心できないんじゃないの?」
「それを言ったらお終い」
 くくくとシスヤは笑う。が、はて、と首を傾げた。
「ん?どうした?」
「ん…気のせいかな…」
 きょろきょろと辺りを見回す。

だれか…いる? 「何か、声が聞こえない?」
「声…ねえ…」
 言われて二人も辺りを見渡す。
 自分たちがいる場所の片側は崖になっている。そしてその反対側は大きな岩がある。こんな所に自分たち以外に人がいるとは思えなかった。
「気のせい…」
 バッと咄嗟にタキトの口をクイントが塞いだ。
「なっ」
「静かに…」
 クイントは耳をそばだて、ゆっくりともう一度周りを見回した。そうして、大きな岩と岩の間で目を止めた。
「いる…」
 シスヤにさがるように指示を出し、自分は用心深く一歩ずつ近づいていく。
「…てくれえ」
「?」
 さらに近づく。
「──助けてくれえ…」
 間延びした声が岩の間から聞こえる。クイントは警戒しつつも、その声の元へと近寄った。
「ああ、助かったあ…。ぼうず、すまないが助けてくれ」
 一人の男がクイントに気づき、顔を上げて懇願した。
 男は、右足を巨岩に挟まれ、身動きが取れなくなっているようであった。傍らに大きな荷物を置き、男は苦しそうにクイントに訴えつづける。
 こんなところに自分たち以外に人がいる。それだけでも十分怪しい。これは、不用意に助けてもいいものだろうか、と思案するクイントの後ろから、ひょいっとシスヤとタキトが顔を覗かせた。
「うわっ、痛そ」
 男の足を見てシスヤは顔をしかめた。
「助けてあげないの?」
「──…」
 タキトの顔を見る。
 タキトはクイントが何を考えているのか分かっていた。もし、ここでこの男を助け、その結果悪いことが起こらないとは言えない。もし、男が自分たちに仇なす存在だったとしたらどうなる?それを考えてクイントは躊躇っているのだ。
 だが、それと同時にタキトはクイントの性格もよく分かっているつもりだった。躊躇っていても、このまま男を見捨てることはクイントにはできない。たとえ、その後自分たちに災いがふりかかってこようとも、クイントはこの男を助けてしまうだろう。
「助けよう」
 クイントが判断を下す前に、タキトがそう言った。
 クイントが判断を下すのを待つのはたやすい。だが、その結果起こったことに、後で責任をクイントが全て感じてしまうのを避けたかった。ただでさえクイントは人一倍責任感が強い。それに、母ニシアとアネットを失って以来、常にその責任を感じて自分自身を責めつづけている今は、特にそういった状況を避けたかった。
「棒っ」
 シスヤが一本の太い木の棒を見つけてきた。長さはちょうど一メートルちょいくらい。使うには手頃な長さだろう。
 タキトはそれを受け取ると、ぐっと、岩の下へ棒の先を入れた。
「せーのっ」
 三人はタキトの掛け声と共に、その棒に体重を掛ける。
 岩が少しだけ動いた。
「せーのっ」
 何度目かの掛け声の後、ガラッと音を立て、岩が転がった。
 男はようやく岩の重みから足を解放することができ、ふうと大きく息をついた。足をさすり、よかったよかったと呟いている。
「大丈夫か、おっさん」
 
 
BACK
 

▲このページのTOPへ