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アネットは、首に付けていたロケットをクイントの手に握らせた。
「行って…リクウェアに──」
クイントは目を見開く。
「──クイント、リクウェアであなたの…幸せを…みつけ…て…」
細い指でクイントの頬に触れる。
自然に恵まれているというリクウェア。幻の国として語り継がれている国。その国では人々は争うこともなく、平和に暮らしているという。私たちの生きる国とは異なる国。遠い異国の地。
きっと、そこに行けば…クイントは幸せになれる──。
この苦しみから解放される。
人を傷つけるために、自分の身が裂かれるほどの痛みを感じ続けてきたクイント。彼は戦の中で生きていくにはあまりにも繊細な心を持っている。
誰にもその心をこれ以上傷つけさせてはならない。そう思いつつ、自分はクイントを守ることができなかった。ただ傷ついていくのを見ているしかできなかった。
だから…。
行って。リクウェアに。そこで幸せになって。戦のことを忘れて、幸せになって。
アネットは空を仰いだ。焼け落ちた天井の間から、空が顔を覗かせている。
青い空──どこまでも澄み渡った空。
幼い日にみんなで見上げた空と変わらない。
そして、この蒼天の続くところにきっとリクウェアはある…。
「──一度で…いいから、緑の国…行きた…か…」
クイントの頬に添えられていた手から力が抜けた。静かに地におちる。
「アネット?」
幼なじみから返事はない。
「──アネット…?」
震える手で彼女を揺さぶる。
だが、その愛らしい唇が開かれることはもう二度となかった。
クイントはぎゅっとアネットの身体を抱きしめた。
もう二度と自分の名を呼ぶことも、見てくれることもない大切な幼なじみの身体に顔を埋めた。だが、何故だろう。涙が──出ない…。
どのくらいの時が流れただろう。ふと、クイントは自分の手に握らされたロケットに気づいた。
銀色の楕円形のロケット。
アネットの母が、アネットの十才の誕生日に贈ったものだった。大切そうにアネットはそれを身につけていた。
──カパッ──
ロケットのふたを開ける。
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