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(──なんか変だ…。)
クイントは直観的にそう感じた。
シクサ村まであとわずかとなったところだった。前方にはもうシクサ村の家々の屋根が見えてきていた。
隣のタキトを見る。同じく違和感を感じているらしく、こくりと頷いた。
どこが、とは言うことができない。ただ漠然とした不安と違和感を感じるのだ。
村で何かあったのだろうか。
「鍵は?」
「持っている」
クイントはチャラと鍵を見せた。銀色の鍵が小さな輪に通されている。
「丘へ行くぞ」
「クイント?」
村へは直接入らず、村はずれの丘に行くと言ったクイントを、シスヤは不思議そうな目で見る。
「シスヤ、来い」
ここはクイントの言うとおりについていくしかない。
足早に歩くクイントとタキトの後ろを小走りで追う。
「──何かあったの?」
「分からない」
タキトの陽気な顔からも、いつもの笑みは消えている。
「けど、何かあったかもしれない」
説明を加える。
「念のために、丘に行って、そこから直接家まで帰るんだ」
「どうやって?」
「シスヤは最初に村に来たときに閉じ込められた地下室があっただろ? あそこには隠し通路があってね。
その通路の出口が丘にあるってこと」
ふうん、とシスヤは前方に見えてきた丘に目をやる。
クイントは丘に上ると、父親の墓の元へ歩み寄った。
「ここは?」
「あ、シスヤは初めてか」
おびただしい数の墓標に目を見張るシスヤにタキトは静かに言った。
「ここは村の共同墓地。今まで死んだ村人を葬った場所。で、ここがクイントの親父さんの墓、と。ちなみにおれの両親の墓もあっちにあったりする。アネットの両親の墓もな」
はっとなってクイントを見る。
そうだ、自分だけではないのだ。家族を失っているのは、自分だけではなかったのだ。クイントも、タキトも、そしてアネットも家族を失っているのだ。この戦の中で家族全員無事というほうが不思議なことなのだ。
そんな当たり前のことに今まで気づかなかった。自分だけが家族を失い、自分だけが不幸の中にいるように思っていた。そんな自分が恥ずかしい…。
「シスヤ?」
タキトが振り返る。
「おれっ」
「分かっている」
微笑むタキトの顔はどこか悲しげだ。
「悲しいことがあれば、人は自分だけが不幸のように思ってしまう。でも、お前はそれを自分で気づいた。もういいじゃないか。それ以上自分を責めなさんな」
かつて自分そうだったから。
一度に両親を失って、自分だけに不幸が集中して起こったように思えた。泣いて、落ち込んで、クイントに八つ当たりして──。そんな時期が自分にもあった。でもクイントはそんな自分を責めることはなかった。ただじっと自分の側にいてくれた。そのお陰で自分は立ち直れたようなもんだ。
「行くぞ」
クイントが二人に声を掛ける。
クイントが踏み出したその先には、地下へと続く階段がある。
父親の墓の下に続く階段。クイントはろうそくを片手にゆっくりとそこを降りていく。
「さ、先に行きな」
シスヤの背をタキトが押しやる。そして、自分が階段を十段ほど下った地点で振り返り墓石を元の状態に戻した。こうしておけば、誰も気づきはしない。
まっすぐに伸びる通路はクイントが立ってようやく歩ける程度の高さのものだった。クイントよりも少し背の高いタキトは腰を屈めて歩く。
三人は不安を抱えながら早足に進んだ。
百メートルほど歩くと、扉が現れた。頑丈な石でできた扉。
「行き…どまり?」
「いや」
クイントはろうそくを後ろにいたシスヤに渡すと、手に握りしめていた銀色の鍵をぐいと鍵穴に差し込んだ。
「外から入れないよう鍵がかけられてんだよ。特注の鍵がね」
後ろからタキトが囁いた。
クイントは鍵を差し込んだま、右手の壁に向かう。そこにはいくつかの突起があった。まず右端を、次いで中央を、と何箇所かをぐっと押しやった。
ゴゴゴゴ…
音を立ててゆっくりと扉が開く。
そんな扉が数カ所あった。そのたびに、クイントはろうそくをシスヤに渡し、同じような作業を繰り返した。扉に鍵を差し込み、壁を押す──。単純な作業に見えはするが、クイントが押す順番は毎回違っていた。
「よく覚えているね。めったに使うものでもないんでしょ?」
「まあな」
クイントの歯切れの悪い返事にタキトが笑った。
「こいつのおやじさんな、こいつが小さいころ壁の暗号ばっかり教えてたんだよ。んで、実際にやらされてたんだよな」
「この通路で?」
「そう。内側から入っていって、この地点まで来る。それから元の場所まで戻って来いってな。最初のうちはすごかったぜ。なかなか戻ってこられなくって」
けけけっと愉快そうにタキトは続ける。
「いつぞやなんかこいつが勝手にここに入り込んでね、壁の暗号忘れちまってよ、閉じ込められたんだ。まさかここにいるなんて誰も思わねえだろ。もう大騒ぎ」
「余計なこと言うな」
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