「──自分がやったんだ。でも、自分のせいじゃないと思わないと、おれはもうこれ以上生きていけない──!」
怖い、怖い、と言いながらシスヤは泣き続けた。
窓から月明かりが差し込む。細く柔らかいその光は三人を優しく照らしていた。
「行ってみるか?」
それから数日後のことだった。
考えごとをしているようで、それまでずっと黙っていたクイントがふと口を開いた。
「え?」
シスヤにあやとりを教えていたアネットが顔を上げる。
「いや、行ってみるか?」
「──お前、時々、言っていることわかんねえぞ」
グリッと、クイントの後頭部に拳を押しつける。
「痛いな」
「人の言葉をちゃんとしゃべれ」
ぎょろりと睨んだクイントの口をむにーと引っ張る。
「お前のこの口は何のためにあるっ」
「ひひゃひとひっひぇひゆひゃよう」
あはははーとそんなクイントを見てシスヤが笑った。
「笑うなっ」
ぽかりとシスヤの背中を背後から足蹴りする。
「いたーい、クイント、ひどーい」
さっと、アネットの後ろに逃げ込む。
この頃シスヤはこの家の、というよりはタキトとクイントの決定的弱点を見つけてしまった。何があっても、二人はアネットには逆らわないのである。いや、逆らえないのである。
したがって、この家で一番安全なのはアネットの側なのだ。このことを発見して以来、何かあるとシスヤはアネットの後ろに逃げ込むことを覚えた。
「ずるいぞっ」
「もう、大人気ないわね」
「うっ…」
ほらこのとおり、とシスヤはニィとアネットの背後から笑った。
おれはまだ十二の子どもだ、とぼやくクイントの首に、タキトは後ろから腕をからめた。
「で、どこへ行くの?」
「ああ…」
クイントはシスヤに視線を移す。
「おれ?」
こくりと頷く。
「お前の生まれた村に行ってみたいか?」
三人は絶句する。
「お前っ」
「もう、一ヵ月以上たっている。いくらなんでも大丈夫だろう」
それに、と言葉を続ける。
「このまま自分の生まれた村を見ずにいるのは寂しすぎる…」
「──そう…かもな…」
どんな場所で生まれたのかも知らずにいるのは、悲しい。
「でも…」
不安げな瞳をアネットは向けた。
村がまともな状態で残っているとは考えられない。そんな状況の村へシスヤを連れていくなんて、残酷だ。
夢は夢のままそっとしておいてあげたい。夢に見た故郷を、いまさら現実の姿で打ち壊す必要なんてどこにもないのだ。
「これは、シスヤが決めることだ」
タキトの腕を解き、すっとタキトの前にゆく。そして、その場にかがむとタキトと視線の高さを合わせた。
「お前はどうしたい?」
「──…」
数日前に同じことをクイントに問われた、と思い返した。
あのとき自分は「生きたい」と答えた。そして今は──?
このまま故郷を夢のままの姿で、そっと自分の心の中にしまっておくか。それとも、変わり果ててしまった村の姿を見に行くか。
村へ行く、と言えば、ずっと願い続けていたふるさとに足を踏み入れることはできる。だが同時に抱きつづけた幻想が壊れてしまうのは分かっていることだ。
「どうしたい?」
もう一度クイントは問うた。
真っ直ぐに自分を見つめる漆黒の瞳。
クイントはこうして自分と同じ高さで話をしてくれる。同等の立場で。上からでも下からでもなく、同じ高さで彼は自分に問うてくれる。自分で考えろ、と。
「おれは…」
クイントの瞳を見返す。
「おれは行きたい。自分の生まれた場所に行ってみたい」
わかった、と短く言うと、クイントは立ち上がった。
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