蒼穹への扉
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虹の彼方へ
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 ニシアは一瞬きょとんとすると、次いでぎゅっと突然シスヤを抱きしめた。
「──母さん…」
 クイントが母親の肩を右手の人指し指で突っ付く。
「シスヤはそういうことに慣れていない」
「?」
 ニシアは言われてシスヤを見ると、シスヤは顔を真っ赤にしたまま動けないでいた。
「ありゃ、ごめんねえ」
「突然抱きつけば、誰だって驚く」
「だって、かわいいもんだからつい…」
 かわいい、ねえ、とタキトが台所から昼食を運んできた。
「あたしはニシア、クイントの母親だよ。そして、今日からはあんたの母親」
 にっこりと笑う。
「おれの…?」
「不満かい?」
 ぶんぶんと首を振る。
「四児の母ってのは初めてだねえ」
「何、おれも入ってんの?」
 ことんと、運んできたシチューの入った鍋をテーブルに置いたタキトを、ニシアは後ろからぎゅううっと抱きしめた。
「あたりまえよ、あんたもあたしの子・ど・も」
「うっぎゃー」
 首を締めつけられ、情けない声を出す。
 ふふふとアネットはクイントが引いた椅子に腰掛け、笑っている。
「さあ、シスヤも座って」
 アネットの隣を示され、シスヤはおとなしく従った。
 目の前にタキトがシチューをよそった皿を置いてくれた。温かな湯気が立ちのぼり、おいしそうな匂いが部屋の中を漂う。
「今日のジャガイモと人参はこのタキトさまがむいたんだ。見事だろう」
「タマネギは?」
「タマネギはつまらん。皮のむきがいがまるでない」
 食事を始めた四人を見て、シスヤは眩しそう目を細めた。
 夢にまでみた光景。自分が今まで恋い焦がれてきた、そんな情景。じわりと涙が溢れてきた。
「おやおや…」
 シスヤの様子に気づいたニシアが立ち上がり、シスヤの横に行く。そうして、俯くシスヤの顔に流れる涙をそっと拭ってやった。
「温かくて…」
 シスヤはしゃっくり上げながら、ニシアに言う。

「ここは…温かくて…」
 今まで行ったことのあるどんな場所よりも、ここは温かい。
 これが──家族?
「これからは、ここがあんたの居場所なんだよ…」
 ニシアの声はどこまでも温かく、そして優しい。
 あたたかい…。
あたたかいばしょ

 ここが、これから自分が生きていく──場所…。

 

 夜中に、シスヤの叫び声を聞いてアネットは目が覚めた。
 枕元のランプに灯をともし、上着をはおった。そして、壁に立てかけておいた松葉杖を手にする。
「ん?どうしたんだい…」
 隣のベッドで眠っていたニシアが身体を起こす。疲れて寝入っていたために、シスヤの声には気づかなかったようだ。
「ごめんなさい。ちょっとシスヤの様子を見てきます」
「あたしも行こうか?」
 アネットは首を振る。
「おばさまはお休みになって。明日も朝、早いんでしょう?」
 ニシアはすまないね、と言って、そのままベッドに横になった。
 子供三人、正確に言えば四人を抱えることとなったニシアは、朝早くから食糧の調達にあちこちと出かけなくてはならなくなっていた。火を起こすための薪も、そして水も。
 それまではアネットが手伝っていたのだが、こうなってしまった今は、それも手伝えない。クイントたちがいる間はそれでも手伝ってもらえるからいい。が、朝食の支度のために、水を近くの井戸までくみにいき、さらに、少し離れたところにある畑に野菜をとりに行かなくてはならなかった。
 スウとニシアの寝息が聞こえてきた。やはり余程疲れているようだ。
 アネットはなるべく音を立てないよう、そっと扉を開け、部屋を出た。
「どうしたの?」
 隣の部屋の扉を軽くノックする。
 クイントの部屋で、今はシスヤも共に眠っているはずだった。
 ガチャリと扉が開けられる。
 中から白い寝巻を着たクイントが顔を出した。
「大丈夫?」
「悪い…」
「シスヤは?」
 困った顔をしてクイントはアネットを中に招き入れる。
 ベッドではシスヤが頭を抱えうずくまっていた。
「──どうしたの?」
 アネットは、シスヤの隣に腰掛ける。
「眠れない…んだ…。眠れば殺した人たちの夢に…うなされる…んだ…」
 シスヤの肩は震えている。
「おれが確かに、殺したんだ。この手で──この手でおれが殺したんだ」
 アネットはシスヤを優しく抱いた。
 それと同時にシスヤは大声を出して泣いた。

 
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