蒼穹への扉
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虹の彼方へ
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 では、おれは何をすればいい?
 家族の温かみを知る前に、自分は反中央軍にさらわれた。
 物心ついたときには、もうそこで武器の扱い方を教わっていた。常に銃を手にし、教えられたことを真実だと、疑うこともなく信じていた。正義のためだと、そう信じつづけていた。自分たちが行ったことの先には新しい世界があるのだと。誰もが幸せになれる未来があるのだと。
 自分の正義を信じて、銃を相手に突きつけ、命を奪い──。
 だけどその先には何もなかった。今の自分にはもう何もない。でも、死にたくはない。
 自分が生きる価値のある人間かどうかもわからない。そのような状態で死ぬのは嫌だった。
まだ自分は何もしていない。自分のためになることも。ましてや他人のためになることもしていない。
「──生きたい…」
 生きたい。生き抜きたい。
 生き抜いて、自分の求めるものをいつかきっと手に入れたい。一度でいい。心の底から満足してみたい…。
 くしゃっとクイントがシスヤの頭をなでる。
「生きればいい。家族の分も。殺された人の分も。そして──お前が今まで奪った魂の分も」
 シスヤは頬を擦った。こくんと頷く。
 アネットも涙を拭う。
「ほらっ」
 クイントは鍵の束を取り出すと、アネットに向かって投げた。それをアネットが両手でキャッチした。
「──もう、いいの?」
「お前が決めることだ」
「──ありがとう。クイント」
 ふっと笑うクイントをみて、アネットにも笑みが漏れた。
 アネットはクイントから受け取ったカギ束の中から、地下室の鍵を探し出し、カギ穴へ差し込んだ。


──ガチャッ


 重い扉が開けられる。
「さ、シスヤ出ましょう」
 シスヤはわけが分からぬまま、アネットの言葉に従って地下室から出る。
「お前はもう自由だ。好きにしたらいい」
 クイントはそういうと、持ってきていた銃をシスヤに向かって放り渡した。
「これは…」
 シスヤがアネットを撃った銃──。銃を手にしたシスヤは、目を閉じた。
 これを初めて手にした日、何だか自分が偉くなった気がした。普通の人とは違う。これがあれば欲しいものは手に入った。銃を突きつければ大抵、相手は言うことを聞いてくれる。言うことを聞かないやつは殺せばいい、そう教わった。
 銃さえあれば願いは叶う──だけど、一番欲しいものは手に入らなかったし、一番願っていたことは叶わなかった。
「シスヤ?」
 アネットの呼びかけと同時にまぶたを開いたシスヤは銃をクイントに向かって投げ返した。
「いらない。こんなもん」
「シスヤ?」
 シスヤはアネットの方を向き、にっと笑った。
「おれ、ここにいたい。アネット、いても構わない?」
 アネットはクイントの方をちらっと一寸見る。
「好きにしろ」
 クイントはそう言い残すと、ひょいとアネットの体を抱き抱えた。
 上からニシアの声が聞こえた。──昼食の用意ができたようだ。
「母さんが呼んでいる」
「え?」
 クイントはシスヤを振り返り見ると少し声を大きくした。
「なにやってる。シスヤ、早くそのアネットの松葉杖持ってこい」
「──うんっ」
 子どもらしい笑顔になったもんだとクイントは呟いた。
「お前がそれをいうかねえ」
 タキトが笑いを堪える。
 アネットもクイントの首に手を回しながら、くすっと笑った。
「何を言っているの。シスヤのことより、あなたももうちょっと子どもらしく素直に笑ったらどうかしら?」
「──お前は、もう少しその減らず口をどうにかした方がいい。嫁の貰い手がいなくなる」
「まあ」

こどもなんだから、クイントは  クイントの言葉にアネットは悪戯っぽそうに笑って言った。
「いいわ。そのときはシスヤのお嫁さんにしてもらうから」
「──…」
「おれを飛び越してシスヤかい。そりゃつれないなあ」
「ふふふ、だってタキトはしてくれるの」
「いつでもいいぜ」
 フン、と胸を張る。
「あら、どうしたの?黙っちゃって」
「──いいかげん、その口を閉じないと、落とすぞ」
 三人の掛け合いを後ろから見ていたシスヤは、彼らの気持ちが少し分かった気がした。こんな状況のなかでも温かく優しい心を失わずに生きている彼らの心が。
「えっと…ごめんなさい」
 これがニシアに顔を合わせたシスヤの最初の言葉である。
 
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