アネットは心の動揺を隠して努めて普通ににっこりと微笑んだ。
「あなたはどう思う?」
「おれは…」
シスヤは一度俯き、言葉を探すようにしばらくその口を閉じた。しかし、やがてまた顔を上げると真っ直ぐにアネットの瞳を見つめてこう言った。
「おれは子うさぎを…信じたい」
そう、そうね、とアネットはシスヤの言葉に驚きながら、絵本を閉じた。
「シスヤは知っている? 本当に『しあわせの国』があるってこと」
シスヤの瞳が大きく見開かれた。
「あるのか?」
「ええ。この絵本で描かれている『しあわせの国』っていうのは、本当にあると言われているのよ。リクウェアっていう国なの。聞いたこと、ない?」
シスヤは首を振る。
「聞いたことない。どんな国?」
「戦のない国。そして緑にあふれた自然豊かな国」
「そんな国、あるのか?」
アネットは首から下げていたロケットを開いて見せた。
銀色の楕円形のロケットの中には一枚の絵が入れられていた。
美しい緑。そして澄んだ青い湖。この国にだって、かつてはこんな光景があったはず。だけど、今は永遠に失われてしまったそんな景色。
それは、ある詩人が描いたと言われる絵だった。
リクウェアという遠い異国の絵。そこには戦もなく、人々は自然と共に生きているという。そんな国が世界のどこかにあると言い伝えられている。
「この絵を描いた詩人はね、リクウェアに行ったと言われているわ」
彼はリクウェアを訪れた。そこで見てきた景色を絵にし、そして再び戻ってきたと。
あくまでもそう言われているだけで、本当にその詩人とやらが存在したかも定かではない。
だが──
「絵があるなら…」
「ある?リクウェアは」
アネットはこくりと頷く。
「きっとあるわ。わたしの夢は、そこに行くことだもの」
おれでも行けるかな、シスヤは呟いた。
アネットの顔に笑みが溢れる。
「行けるわ。あなたもわたしもきっと…」 |