しかし、シスヤはうつむいたままだった。聞いているのか聞いていないのか、それもわからない。
「何も言わないと、いつまでもここにいれておくしかないんだけど?」
「脅迫ね、まるで」
アネットが少し怒って見せた。
「脅迫はだめよ」
「きょーはくう?」
「そうじゃない」
「そんなつもりないんだけど」
「ただでさえ怯えている小鳥に、歌わないと餌をやらないって言っているのと同じだわ」
はあ、そうですかね、とタキトは溜め息をつく。
こうなってはアネットにはかなわない。タキトはおとなしく口をつぐんだ。
とりあえず、とアネットは食事をシスヤの前に差し出す。
「あなたが今しなくてはならないのは、この食事を食べること。残らずよ?」
そして、クイントの方を振り返り見た。
クイントはタキトに言われてからは口を挟むこともなく、壁にもたれたまま、事の成り行きをじっと見守っていた。
「あとはわたしとシスヤだけにしてくれる?」
クイントはアネットがそう言いだすだろうとは思っていたので、おどろくこともせず、ただアネットの瞳をまっすぐに見返した。
「おいおい…」
「三対一では不公平だわ」
「あのねー」
「大丈夫だから」
タキトにではなく、クイントに向かって言う。にっこりと微笑んで。
クイントはアネットのその答えに「そうか」とだけ言うと、立ち上がった。
タキトの方は、と言うと、ことの展開についていけず、口をぱくぱくしながら両者を交互に見比べている。
「行くぞ」
立ち上がらないタキトの襟首をつかみ、ぐいと引っ立てる。そのまま引っ張って外へ出た。
くすくすと笑いながらアネットが手を振って二人を見送る。
クイントは地下室を出ると、そこで手を放した。
「おい、いいのか?」
落ち着きを取り戻したタキトがクイントの後ろを歩きながら問う。
「何が?」
「何が、じゃねーよ」
タキトは溜め息をつく。
「あいつとアネットをふたりっきりにしていいのか?」
「大丈夫だろ」
あっさりと事も無げにクイントは言った。
「何でそう思う?」
「アネットが言っただろう。大丈夫、って」
ああ、と大げさにタキトは目を覆った。
全くこいつらは、と思ってしまう。何を考えているのか分からない。クイントも、アネットも。
「あいつは、アネットを傷つけたんだぞ」
「武器はもう持っていない」
「アネットは動けないんだぞ」
「動けないと言っても、一人で階段を上ることはできる。それが出来なければ、おれを呼ぶだろう」
「じゃなくてだね」
「話をするだけだ。動く必要はない」
「──」
ひとしきり問答をしたあと、タキトは最後にとびきり意地悪な質問をクイントに投げかけた。
「心配じゃないの、お前」
「──」
クイントは口をつぐむ。
心配じゃないわけがない。それはタキトも分かっている。ただ、それなのに、アネットを一人置いてきたクイントの心が分からなかったのだ。
黙ってしまったクイントを見て、それみたことか、とタキトは内心思った。
しかし、次の瞬間クイントの口から出た言葉は、タキトにとって意外なものであった。
「──あいつなら心配はない」
信じているから、とクイントは言い足した。
そう。アネットが大丈夫、と言うときは、大抵、その裏に「わたしを信じて」という意味が含まれている。
わたしを信じて。
わたしなら大丈夫──
そう言ったときのあいつは強い。そして、必ずやってのける。
「それに──」
クイントは眉をひそめた。
「おれたちがあいつの口を開かせることができると思うか?」
今度はタキトが黙る。
「そういうことだ」
「──だな…」
笑いがこみ上げてくる。
なんだか妙に納得させられてしまった。
確かに自分たちがいても、シスヤは決して口を開くことはないだろう。反発心を強めるだけだ。それに、アネットが言ったように、やはり三対一はフェアじゃない。
ここはアネットに任せるしかないな、とタキトは笑った。 |