アネットの言葉に秘められた戦に対する思いを、クイントはそっと胸の奥にしまいこんだ。
(──そうだよな……。まずに人を殺すことなんてできるわけない──。悩むことが大切なんだ……)
そうして、クイントは少年たちを率い、戦闘に加わってきた。
──だが、クイントが予想していた以上に、この役目は重く、悲しく、そして辛いものであった。
次から次へと死んでいく仲間たち。
共同墓地の墓がひとつずつ増えていくのを見るたびに、クイントの心には激しい怒りが渦巻いていった。
仲間を守れなかった自分への怒りと、戦を起こした者たちへの怒りが──。
戦争がなぜ始まったなんて理由は、クイントにとってどうでもいいことだった。そんなものはいまさら聞かされても、現状が変わるわけではないのだから。
ただ、もうこれ以上、幼い者たちに自分と同じ思いを味わって欲しくなかった。自分自身もこれ以上、辛い思いをするのは嫌だった。
クイントは生まれたときから戦う術を教え込まれた。
クイントの両親とて、なにも好き好んでそんなことを大事なひとり息子に教えたのではない。そうして自分を守らなければこの世界では生きていけなかったのだ。
クイントはただ生きてゆくためだけに、大事な者たちを守るために人を殺す道具を手にしていた。そして、自分が両親から教わったように、幼い者たちに武器の扱いを教えているのだ。剣の扱い方、弓の引き方──。
空が夕焼け色に染まる。雲もふんわりとした赤色に染められ、やわらかな夕日を受け輝いて見えた。西の空低くには、明るく輝く星が姿を見せている。
風がすっと傍らを通りすぎた。
さわさわと木々が揺れる。
クイントは背の低い木の傍らで足を止める。そこには周りと同じように、小さな盛り土があった。その横には五十センチ四方の石板が置かれている。
薄れて読めない文字。
クイントはその前で静かに目を閉じた。
その下にはクイントの父が眠っていた。
まだクイントが幼いころ、戦に駆り出され、そして父は帰らぬ人となった。
クイントの家族は四人。父は戦で死に、今は母とクイントの二人だけだった。もう一人いたはずの兄は、クイントが三つの時以来、行方不明になっていた。
クイントはふと足元に落ちていた木の実を拾い上げた。小さな茶色のどんぐりだった。
遠い日に別れた兄の姿が前を横切る。後ろには、その兄を追いかけ叫ぶ自分。
いつものように、兄とこの丘に遊びに来ていたあの日。追いかけ、捕まえ──二人は時がたつのを忘れて遊んでいた。
ところが、ふと、自分を追いかけていたはずの兄の姿が消えた。
隠れては自分をからかうことの好きだった兄。だから、クイントはこの時も、どこかに兄が隠れているとばかり考えた。
草むら、木の影、石の間……だが兄の姿は見つからない。
日が暮れるころ、なかなか帰ってこない自分たちを心配して、母が探しにやってきた。
声を大にして兄を探す。
日が暮れても兄は帰ってこなかった。
家に帰され、母と兄の帰りを待った。父は村人たちと兄を探しに出る。
──だが、やはり兄の姿は見つからなかった。
村人たちは囁いた。「連れていかれたんだ」と──。
幼いクイントにはそれが何のことだが分からなかった。ただ泣いている母の側で、わけも分からず呆然と立ち尽くすしかなかった。
やがて、大きくなるにつれて、兄がどうなってしまったのか、何となく分かるようになっていった。
村では、兄だけではなく、多くの子どもが「連れていかれた」という現実を知るようになっていた。
戦力とするために、村の子どもが「連れていかれ」ていたのだ。知らぬうちに。どこに連れていかれたのかも分からない。連れていかれた者は二度と帰っては来なかったのだから。
怒り、怒り、怒り……。
成長するにつれて、クイントの中では戦を起こした者たちへの怒りが増大していった。
父を奪った、兄を奪った戦。自分たちの意志とは無関係に起こされた戦。