じっとその場に立ち尽くしていたクイントは、タキトの姿が見えなくなると、くるりと向きを変え、歩きだした。
けれども、家には向かわない。家とは反対方向を目指す。ずんずんと村の中心とは逆に歩いて行く。
村を抜けると、周りは畑になった。村人たちが栽培している野菜畑だった。さすがに秋に入った今は、夏の盛りに比べればその数は減っていた。
クイントは、やがて村はずれの小高い丘の上に出た。
丘の上からは、クイントたちが住んでいる村が一望できる。
さほど大きくない木造の家々。そして畑。
ここは自分にとって楽しい思い出のある場所であると同時に、来るたびに胸をかきむしられる苦しい場所でもあった。
「──……」
丘の上には幾つも土がこんもりと盛られたものがあった。その上には、こぶし大くらいの石がそれぞれちょこんと乗せられていた。花が添えられたものもある。
クイントは何も言わず、それらの前で静かに目を閉じた。
──ここは、村の共同墓地であった。病で亡くなった者、戦で命を落としていった者。
そんな者たちのために村の者たちがつくった墓であった。
この世界は五つの大陸と広大な海からなっていた。それら五つの大陸の中でも二番目に大きな大陸をアファカ大陸と言う。クイントの住むトルキアは、そのアファカ大陸の南東部に位置する小さな国である。人口は二千万、面積はアファカ大陸の中でも三番目に小さい。トルキアはそんな小国であった。
その小さな国トルキアを巻き込んでいる戦は、クイントたちが生まれる前、彼らの両親が生まれるよりもずっと前から続いていた。
戦の始まりは隣国との領土争いという、何とも単純な理由であったらしい。しかし、今では周りの国々を巻き込み、戦は拡大する一方であった。
各国の指導者たちは、さらなる楽園を求め、自分たちの欲望の赴くままに醜い争いを、自分の国をより豊かにするために、と続けていた。
いつの間にかトルキアでの戦も領土争いという単純なものではなくなっていた。国内における中央側と、それに対抗する勢力との争い。そしてそれに便乗するようにトルキアを狙う周辺の国々の関与。
トルキアだけではなかった。今や世界の至る所で戦が起こっている。理由なんてもう誰も分からなくなっていた。
ただこれだけは分かっていた。一度火の付いた戦争を止めることは不可能である、と。そして、戦が自分たちにもたらしたものは、決して豊かな楽園などでは無い、と。
弱い者が強い者に虐げられる。金のある者だけが優雅な暮らしを楽しみ、貧しい者は生きる術もなくその尊い命を無くしてゆく。人が人を殺し、人が人を差別する……。
地獄としかいいようがない世界を人間は自分たちの手で、この世に作りだしてしまったのだ。
そんななか、人間たちは一つの矛盾を前にし、苦しみだした。
トルキアでは、自分たちの生活を豊かにするため、自分たちの国、家族を守るために自分たちは戦っていると中央側は信じている。そして、反中央側は、中央側が行っていることは間違っている、自分たちはそれを正すために戦っている、そう信じているのだ。それそれが自分たちが正しいと信じ、戦いつづけているのだ。
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