「次はいつ会える?」
あんなに夏中うるさく鳴いていた蝉の声は、気づけば聞こえることはなくなっていた。
陽射しも風もすっかり秋めいてきており、夏が去ろうとしていた。
瑠璃と出会ってからもうすぐ一年。
一月に一度会えるか会えないか。だからこそ、会えるひとときを大切に過ごしていた。
「うーん…次は……」
ひいふうみいと伊吹は指を折って数える。そうして、がっくりとうなだれた。
「しばらくは駄目かも……」
傍らにある木に目をやる。
「この葉が色づく頃は……会えるかな」
「そっかあ……」
残念そうに、瑠璃は息をつく。
「あたし、待ってるから。ここで。伊吹がくるの、ずっとずっと待ってるから」
くるりといつもの笑顔を向ける。伊吹が大好きな満面の笑みを。
「紅葉が色づく頃、またここで」
そう言って、名残惜しそうに後ろを振り返りながら去っていく伊吹。その姿が見えなくなるまで、瑠璃はずっとその場で見送ってくれた。
二
本格的な秋がやってこようという頃のこと。
伊吹の村一帯を、大きな嵐が襲った。
秋に向けて、実を膨らませていた稲穂は無残なまでになぎ倒され、かろうじて残ったものも、とてもではないが豊かな実りなど期待できようもなかった。
ここ近年続いた凶作に、今年こそはと願いをかけていた村人たちは一様に肩を落とし、突如襲った不運を嘆いた。
それに追い討ちをかけるように、数年ぶりに病が流行り出した。
伊吹の両親を奪った病と同じだった。
相変わらず、村には薬師はいなかった。かろうじて巫女がその真似事をしていたが、それでも切り傷に効く薬、捻挫に効く湿布薬といったような、ささいな怪我にしか対応したことがなかった。
大きな病を患った場合は、一日以上かけて一番近い町まで出る必要があった。さもなければ、そのままおとなしく臥せっているほかなかった。
町から医師や薬師を呼んできたとしても、莫大な金がかかる。そのような金を村人たちが持っていようはずがなく、たいていの場合は泣く泣く諦めるしかなかった。いや、たとえ医師を呼んできたとしても、今回の病に効く薬などなかった。
時を同じくして、病は近隣の村にも広がり始めた。そうして、一度広がり始めた病をとめる術を人々は持っていなかった。
体の弱い子どもや年寄りから倒れていく。
連日屍を焼く火が絶えることはなく、空を黒い煙が覆った。
「呪われておる、この村は」
村の寄り合いの席で巫女がそう呟いたという噂が流れた。
神に願いを捧げ祈る巫女は、村では重要な地位にある。どんな些細なことであっても、その口からでる言葉は、村人たちからしてみれば、天の言葉にも匹敵する。
「天が怒っていらっしゃる」
村人たちの間には不安が広がり、その原因を探して回った。
何が原因なのか?
何が天の怒りを買ったのか?
互いが罪を擦り付け合い、つまらない喧嘩が頻発した。
だが、決定的な原因なぞ見つかりはしなかった。そんなもの最初からありはしなかったのだから、当たり前である。
あれこれと理由をつけたところで、病が広がるのを誰も止めることはできなかったし、駄目になってしまった稲穂をよみがえらせることもできなかった。
伊吹も不安に思いながら、瑠璃が住む山の方を見やった。 |