蒼穹への扉
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 あたふたと、それでももっともらしい理由をこじつける。
 おばばについて来られたらまずい。なんせ伊吹の家がある場所は神域なのだ。そんな場所に行ったと知れれば、それこそ小夜はもう二度と森に行かせてもらえなくなってしまうであろう。それどころか伊吹にもどんな迷惑がかかってしまうか知れたものではない。
 おばばは一瞬の間を置くと、小さく息をつき、それまでの追及とは別の、わずかばかりの助言をくれた。
「足が治るまでは村から出るでないぞ。そうだな――収穫祭が終れば、足もよくなっておろうし、長の気も静まろうて」
「収穫祭……」
 長いな、とぼやく。
 収穫祭――年に一度、その年の稲の収穫が終る頃に行われる祭りだ。無事に作物が収穫できたことを神に祈る祭り。どこの村でも大抵行われているものである。
 迷い人の村でも特に変わったことをするでもなく、巫女による舞いと、その年一番にとれた稲が神饌として神に奉納されていた。人々は神に感謝を示し、家々では普段作られることがないような、ちょっと豪華な料理が用意される。
 収穫祭まであと一月半。おばばは、それまでおとなしくしていろと言うのである。足が完治したらすぐにでも伊吹のもとへもう一度行きたいと思っていた小夜(さよ)にとって、一月以上も我慢しろというのは少しばかり酷だった。
 だが、騒ぎを起こしたばかりとあっては、おばばの言葉に逆らうこともできない。また、父の目も未だに光っており、行き先をいちいち尋ねるものだから、そのくらいはおとなしくしていたほうが賢明であろうと諦めた。
「ん? どこへ行く?」
 立ちあがった小夜をおばばが呼びとめた。
「おばばもいちいち聞くんだな……」
 ぶすっとして小夜が答えた。
「それは仕方なかろう。お前は蝶のようにひらひらとすぐにどこぞへか行ってしまうからな」
「信用ないんだな」
「しかたあるまい」
「安心してくれ。祭りまではちゃんとおとなしくしている。村からは出ないから。これから行くのは唯乃のところだ。あそこで祭りに使う器の準備をするんだ」
 ぶっきらぼうに答える小夜の子どもじみた様子にくつくつとおばばは笑った。
「またあとでおいで」
「そうしてまた私をからかうのか?」
「餅を用意しておいてやろう。栗の入った餅じゃぞ」
「――そうやって私を子ども扱いする」
 ぷうと頬を膨らませるが、「また後で来る」と言葉を残して出ていく小夜を、おばばはやはりまだ子どもだと笑って見送ってくれた。

 

 収穫祭。
祭りにふさわしく、その日は高く澄んだ秋空が広がった。心まですがすがしくなるような青空の下、収穫祭は村長による神への感謝の言葉と神饌の奉納で始まった。
 続いて行なわれたのが毎年恒例になっている巫女の舞い。例年は巫女であるおばばが舞いを披露していた。もちろん、今年もおばばが奉納の舞いを奉じた。神々に今年の豊作を感謝し、来年の実りを祈るもの。それとともに、森から我ら人への言葉を聞くために捧げる舞い……。
神饌
 舞い終えたおばばは息一つ切らすことなく、この日のために作られた祭壇前の舞台上から、村人たちに向かって静かに森の言葉を伝える。
 歌うような朗々とした声が辺りに響き渡った。

 日々の実りに感謝せよ
 己の命が他のものたちの上に成り立つものであることを知れ
 生きとし生きるものの命には上もなく下もない
 今己が生きていることに感謝せよ
 緑息吹く大地に
 清き水をもたらす大地に
 日々の糧を与える大地に
 
 冬には厳しい寒さと共に
 心にも雪が降り積もろう
 そして春の訪れと共に旅立ちがやってくる
 だが決して忘れてはならぬ
 主たちの命は主だけのものではない
 主が生きるために奪った命に感謝せよ
 さすれば主たちの「明日」を約束しよう
 秋には再び実りの季節が訪れる

 我は森の言の葉を伝えし者――

 おばばが言葉を告げ終えた後も辺りは静まり返り、物音一つしなかった。誰もがおばばの声に聞きほれていた。

 
 
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