リエルは頷いた。
ここはフェリィに行ってもらうしかない。
しばらく考えた後、リクシュは決心したように頭を上げた。
リエルが思っているように、ここはフェリィに行ってもらう以外道がない。
彼女は決して「戦い」向きではない。
エビドュたちと戦をしに行くわけではないのだから、そんな力は必要ないと言われればそうかもしれない。が、己を守れるだけの力だけはほしい。
果たして、エビドュと対峙するような事態に陥ったとき、彼女はその場を乗り切ることができるだろうか。
考えたとき、それはとても難しいことのように思えた。
力が、というより彼女の性格的に、だ。
だが。
(他に行ける者はいない――か)
逆に彼女のその性格が、別の道を探してくれるかもしれない――そんな淡い期待も込めて、リクシュははっきりとした口調で告げた。
「───わかった。だけど、無茶だけはしないでほしい」
「あら、わたしはリエルほどお転婆でもないし」
にっとレイドがリエルに向かって笑う。
「それに、レイドほど無鉄砲でもないですわ」
今度はリエルがにっと笑う。と、次の瞬間二人同時に「失礼な」と立ち上がった。
「あら? 違いました?」
二人はえっとお互い顔を見合せ、小さくなると「仰る通りです」と腰を下ろした。
リクシュはそんな二人の様子に笑いを堪えながら、リクウェア国の地図を持ってきた。
「フェリィは行くのは初めてだよね?」
「ええ」
リクシュはテーブルの上に地図を広げると、湖を指さした。
「ここに村がある」
「たぶん、だけどね…」
リクシュの傍らから言葉を足したルリアに視線が集まった。
「たぶん、っていうのはどういうこと?」
「確かに昔はそこに村があったわ。私がリクウェアを出るときも。でも、この地図に乗っている村の半分以上は、私が出る時点ですでになくなっていたから」
それはリクシュにとっても初めて耳にすることだった。
「それは――」
「セヌエフの…命令で幾つも村が取り壊されたわ。ううん、それより、村人たちの数が激減して、村が村として成り立たなくなってしまった、っていうのが正しいかもしれない」
そんなにひどいことになっているとは……。
先日見下ろしたリクウェアは、確かに以前リクシュが知っていたリクウェアとはかなり異なっていた。
だが、そこまで変わってしまっているとは……わからなかった。
たった数ヶ月で、リクウェアはそこまで変わってしまったのか――。
「でも……きっとこの村は大丈夫だと思う」
思いたい。
あの村だけは大丈夫だと。
クイントもいる。テキスもきっといてくれる。
だから、あの村だけは大丈夫。
ルリアは、自分が最後に訪れた村がどのような状態になっていたのかを知っている限り細かく伝えた。
多くの命が奪われ、地上にある村は閑散としてしまており、あまり人の気配がしないということ。
働くことができなくなってしまった者たちは、下手をすれば命を奪われるため、村の下にある秘密の場所でかくまわれていること。
「まずはこの村に行ってクイントという少年に会って」
リクシュは地図をたたんでフェリィに手渡した。
「彼の特徴は?」
「村へ行けば分かると思うよ。真っ黒な黒髪で――前髪を右側だけ長くのばしているんだ。歳はそうだね…ぼくより少し年上。無愛想で、いつもむすーって顔をしているかも」
「子どもらしくない子ども、っていう言葉がとっても似合う人! そんな人、村にはクイントしかいないから大丈夫。絶対間違えない!」
因みに、もう大人の領域に片足突っ込んでいるのに、子どものような言動をするテキスという剣士がいることも伝える。
言いたい放題言っている二人に、フェリィはくすくすと笑い出した。
「2人はとてもその方がすきなのね」
「?」
「だって、とても楽しそうですもの」
きょとんとルリアとリクシュは互いに顔を見合わせると、ふふふと笑った。
そうだ。彼はとても大切な自分たちの仲間だ。たとえどんなに無愛想で、子どもらしくない子どもでも。
彼ほど純真な心をもち、彼ほど他人のことを思いやることができる人などいないのだから。
リクシュはクイントについて、最後にもう一つ情報を付け加えた。
「彼はリクウェアの人じゃない。トルキアという今はもうない南方の国からやってきた人だ。だから、完全にリクウェア寄りではない。リクウェアのかつての姿をよし、としているわけでもない。少なからず反感も抱いていたから。でも、信用しても大丈夫だよ、彼は。彼なら、ね」
隣りでルリアも大きく頷いた。
「で、クイントに国の様子を聞いたあと、できれば…いいね? 決して無理はしちゃ駄目だ」
「セヌエフ、ですわね」
「───そう、出来れば、でいい。決して無理はしなくていい」
「わかっていますわ」
フェリィは頷くと、心配そうに見ているルリアの顔を見て微笑んだ。
「大丈夫、あなたのご家族のこともきちんと調べてきます」
「いいね、十分に気をつけるんだよ」
リエルは念を押した。
「大丈夫ですわ」
その言葉を最後にフェリィの姿がスウッと、まるで霧のように消えていった。
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