蒼穹への扉
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  フェリィの言葉に、レイドは目を丸くした。
「二つ? 二つもあったのか?」
 フェリィはにっこり微笑むと頷いた。
「一つは、トュティノかエビドュの意思によって自ら眠りについてもらうこと」
「そりゃあ、無理だ」
「今の状況を考えるとそうですわね。となると、もう一つの方法をとる必要が出てきますわ。それは私たちとルリアでエビドュかトュティノのいずれかを封印すること──」
「それは──!」
「そう、これも今はまだできません。なにしろルリアが──」
 はっとなってフェリィは口をつぐんだ。このことは口にすべきではない。
 未だ、女神としても力を覚醒することもできず、何の役に立つこともできぬ自分を一番責めているのは彼女なのだ。
「ごめんなさい」
「気にしないで───事実なんだから…」
 悲しみを隠してルリアは笑った。
「じゃあ、どうしようもねえじゃん」
「──いや。ルリアの力はもう戻っているのかもしれない」
 リクシュの言葉に一同は言葉を失う。
「君の力は少しばかりだけれど、戻っているのかもしれない。記憶の方も少しずつね。だからこそ、エビドュはルリアをねらっているんだ」
「でも…」
 リクシュはそこで一息つく。
「なぜ、あいつは君にこだわっていると思う?」
「──ルリアを恐れているんですわ」
 フェリィがはっと顔を上げた。
「そうだ。しかも、ルリア自身、自分の力には気がついていない。まだ完全に覚醒しきっていないからね。だから、覚醒しきった君が自分たちを封印することを恐れているんだ。自分を唯一封印することのできるルリアの力をね。そして君の力の証でもあるその聖碧球をね」
「でも、ルリアはまだ完全に覚醒していない。だったら完全な封印をほどこすことはむりだ」
「いや──1つだけ方法がある」
 リクシュは言葉を強めた。そしてこう言った。
「『力得し者』を探すことだ」
「『力得し者』…?」
 レイドはう─んと考え込んだ。
「なんだそれは?」
「ばぁか」
 コツンとリエルがレイドの頭を叩いた。
「あんたの頭は空っぽかい?」
「──なんだよ。おれの頭ほど脳みそでいっぱいな頭はねえぞ」
「よくいうよ。言われたことはすぐに消えちまうくせに」
 リエルとレイドのいつもながらの小競り合いが始まった。
 リクシュはそんな二人の姿を横目で見て、ふうっとため息を一つついた。
「こんなんじゃ、いつまでたっても話が終わらないよ」
 リクシュの言葉にウッと、何も言えなくなった二人はしょぼんと黙り込んだ。
「続きをどうぞ──」
 レイドが上目遣いでリクシュを促す。
「そう、続き、ね───」
 えっと、と考え込むリクシュ。
「なんだっけ?」
 ぷっとルリアは思わず吹き出した。
 照れたように頭をかき、へへへ…と自分の失敗を誤魔化すリクシュに、今度はフェリィが話を続ける。
「力得し者です」
 そのまま、フェリィがリクシュの後を引き継ぐ形で、ルリアたちに説明を始めた。
 彼女の話の内容はおおよそ次のようなものであった。
 ルリアは未だ女神として覚醒ができていない。しかしエビドュたちを封印するためにはルリアが必要不可欠である。ルリアの力の覚醒を促すことができるもの───それを援護するものが必要であった。
「それが───『力得し者』か?」
 リクシュはレイドの言葉に深く頷いた。
「ただ、これまた問題がありましてね」
「問題…?」
「『力得し者』は人間なはずなんだ」
「それのどこが問題なんだ?」
 レイドの言葉に一同しんとなる。
 リエルは大きくため息をついた。
「人間なんだよ? 今このご時世に生きているかどうかもわからないだろ」
「──ああ、そうか…」
 まぬけな言葉にリエルは苦笑した。
「──ただ、その『力得し者』が生きているとしたら、可能性があるのは──」
 ルリアははっとなって顔をあげた。
「ルリアの国…リクウェアだ」
 リクシュは真っ直ぐな瞳で応えた。
「───だから、ぼくはリクウェアへ行くよ」
 『力得し者』を探しに、それから様子を見るためにルリアの国に行きたい───リクシュはそう続けた。
 レイドを殺そうと思えば簡単に殺せた。だが、それをエビドュはしなかった。いや、もしかしたら風に守られたレイドを殺せなかっただけなのかもしれない。
 だが、次の手を打ってくる気配がまったく感じられない。不気味なほどに沈黙を保っているのだ。
 それがリクシュは不思議でならなかった。
 こちらにルリアがいる以上、そしてそのルリアが力に目覚めはじめているという以上、必ずエビドュはルリアの覚醒を阻止しにやって来るはずだ。エビドュを封印する力を唯一持っているルリアを奪いにやって来るはずだ。
 それなのにエビドュは何もしかけてこない。
 リクシュの中を不安が渦巻いていた。ルリアの国で何かが起こりかけているのではないか、または何かが起こっているのではないか…。
 もし、万が一何かが起ころうとしているならば、それに対抗するだけの力がこちらにはまだ足りない。いくらルリアがエビドュを封印する力を持っていたとしても、それは力も記憶も覚醒した状態にあるときであり、現在のルリアにはその半分の力も、実際には戻っていないだろう。だから、そのルリアを援護できる者を───
 『力得し者』を一刻も早く見つけなければならない。
 それとともに、もう一つしなくてはならないことがある。
 ───セヌエフだ。エビドュとトュティノを封印しても、彼が変わらなくては現状は変わらないだろう。
 『力得し者』の捜索、そしてセヌエフとの接触。
 そのためにもリクウェイア国には行く必要があるのだ。
「リクシュが行くのは危険だぜ。第一、万が一のことを考えてお前はルリアのそばにいたほうがいいと思うけどな」
「でも…」
「とにかくお前じゃ、エビドュも警戒をすると思う。おれたちのなかで一番奴に顔を覚えられているのはお前なんだぜ」
「……」
「おれが行く」
 リエルはレイドを睨むと言った。
「何いってんの。あんただってこの前、さんざんな目に会ったばかりでしょ」
「うっ…」
「やっぱりここはあたしが…」
「わたしが行きます」
 今まで黙って話を聞いていたフェリィがふと、顔を上げた。
「わたしが行きます」
 フェリィはもう一度言うと、リクシュのほうを見た。
「わたしならそんなに目立たないと思います」
「確かに…」
「リクシュとレイドが行くのは危険すぎます。リエルはサナのそばにいるべきだわ。ね、リクシュいいでしょう?」
「───…」
 リクシュは一同の顔を見渡すと、ふうとため息を突いた。
「危険すぎるよ。フェリィじゃ危険すぎる」
「なぜです?」
「───…」
「わたしでは力不足だから?」
「それもある」
 リクシュのはっきりした答えにも怯まず、フェリィは続けた。
「でも、それじゃ誰が行くんです? わたししかいないでしょう?」
「───リクシュ…」

 
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