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「はい、ルリア、これあんたのね」
小屋に帰ったルリアは、そのままリエルに引っ張られ、一番最初に目覚めた部屋へと入った。
見れば、先ほどまでルリアが寝ていたベッドには5、6着の洋服が広げて置かれている。
「こん…なに……?」
少し困ったようにルリアは笑った。
「いいんだよ。どうせあたしのお古なんだし。いいだろう、別に?」
もちろん、とルリアは服を一着ずつ手に取る。
どれもリクウェアにいたときに着ていたものに比べれば、ずいぶんと素朴なものだった。しかし、もともと華美な服装を嫌がり、式典などのかしこまった場以外では身軽な格好でいることが多かったルリアにとってみれば、リエルが用意してくれたものがお古であろうと何であろうと、気にはならない。
むしろ、リエルが今まで着ていたものを無理に自分に譲ってくれようとしているのではないかと不安に思った。
「ルリア、本当にあんた王女様なのかねえ……」
ルリアの素直な言葉に苦笑するリエルを、フェリィが小さく睨んだ。
だが気にせずに、リエルは続ける。
「だって、そうだろう? あたしはもっと王女様ってのは、こう……」
「高貴だと思った?」
「ん、そう。近寄りがたいかな、ってね。そうしたらどうしようかと思ったよ。こんな場所だしねえ…」
大げさに肩をすくめてみせる。
「言い方が失礼ですわ、リエル……」
眉をひそめるフェリィに、ルリアは慌てて手を振ってそれを否定した。
「私、苦手なの。そういうの」
ルリアも一応、リクウェアの第一王女だ。
城ではなんだかんだと式典も多く、そのたびに王女として出席しなければならない。
だが、ルリアはその「式典」が何よりも苦手だった。
なにしろ、ドレスは窮屈で肩がこる。
また、式典では覚えることが多いのはもちろんのこと、じっとしていなくてはならない時間がやたらとあって堪えられない。
それでも我慢できたのは、式典さえ我慢すれば、その後には楽しい祭りがあることもあったし、そういったときは、多少ハメを外して大騒ぎしても父も母も目をつぶってくれる。
「でも、抜け出してたんだろう?」
けらけらとリエルは笑う。
「――リクシュ…ね……」
顔を真っ赤にしながら、ルリアはリクシュへの恨み言を口にする。
「フェリィ! 早くー」
そのとき、隣りの部屋からひょいとサナが顔だけ出した。
「まだ〜?」
「ああ、そうだったね。フェリィ、じゃあ頼んだよ。――それから、ルリアも、ね」
はい、と手渡されたものは、草で編んだバスケットだった。
不思議そうな顔をするルリアの手をサナが引っ張る。
「行こう、ルリア!」
行ってきまーすと、奥の部屋に向かってサナが声をかけると、「おー」「いってらっしゃーい」というレイドとリクシュの声が返ってきた。
問答無用で連れ出されたルリアは、小屋からしばらく行ったところで、ようやく歩調を緩めたサナに声をかけることができた。
「行くってどこにいくの?」
「お昼を採りに」
にっこり笑って、となりを歩いていたフェリィが答える。
「お昼?」
「『働かざる者、食うべからず』!」
一瞬、きょとんとしたルリアだったが、直にくすくすと笑い出した。
同じようなことを、よくリクシュが言っていたことを思い出したのだ。
普段、城にいれば、ルリアが自ら料理をしたりすることはまずない。たいていは、できあがったものをスエレナが運んできてくれていた。ましてや材料を探してこなくてはならない、ということもなかった。
しかし、村に行けば話は変わる。
小さな子どもたちも立派に両親を手伝い、家の仕事をこなしている。
遊びに行っているルリアといえども、さすがにそんな様子を見て何もしないわけにはいかない。むしろ、自分から率先して村人たちの仕事を手伝っていた。
初めは気を使って、「そのようなこと」と遠慮していた村人たちも、やがてはルリアの気持ちを汲んで、いろいろと頼みごとをしてくれるようになった。
なれぬことに、初めのうちはよく失敗をしていたが、それでも自分で何かをし、それが村人たちの役に立っているかと思うと、心が満たされた。
城にいただけでは決して知りえないこと、体験できないことばかりだったからかもしれない。
そして、何よりも手伝いを終えた後の料理が、格別においしく感じることを、ルリアは初めて知った。
「働かざる者、食うべからず、っていうからね」
ひと仕事を終えた後の食事時、リクシュは満足気にいつも言っていた。
「まあ…リエルの口癖なんですわ、それ」
フェリィは呆れたように息をついた。
「いつもレイドやリクシュが言われていることなんです」
「そうそう! 『あんたたち、いつまでも寝てないで、さっさとやることしちまいな! 働かざる者、食うべからずだよ!』ってね」
ルリアたちは、おしゃべりをしながら、森の奥へ奥へと歩いていった。
頭上では、小鳥たちが楽しそうに歌を歌っている。今まで聞いたことがないような鳴き声の鳥もおり、それを耳にするたび、ルリアは天を見上げて声の主を探した。
場所が変われば、そこに生きるものもこんなにも変わるものなのかと、ルリアは初めてみるリクウェア以外の大地にあれこれと興味を示した。
フェリィは結構な物識りで、ルリアが訊ねるたびに、一つ一つ丁寧に答えてくれる。
「ねぇ───!あったよ───」
前方を歩いていたサナが叫んだ。
フェリィとルリアが走って近づくと、サナは小さな木のそばに座り込んで何やら必死に採り始めていた。
「あら、本当。これはみごとですわね」
フェリィは一粒赤い実を採ってルリアに見せた。野いちごだと、フェリィは教えてくれた。
鮮やかな赤色がみごとで、ほのかな甘酸っぱい香りが漂ってきている。
「これでジャムやパイを作るんです。ルリアも採ってくださいな」
たわわに実った野いちごを三人の少女たちは、摘み始めた。
そうして、持たされたバスケットいっぱいにたまったころ、ルリアはふとサナの姿が見当たらないことに気づいた。
フェリィはもっと他の場所で探しているのだろうと、ひとまず透き通る声で彼女の名を呼んだ。だが、サナからの返事はない。
「おかしいですわね……」
首をかしげてあたりを見渡す。
「そろそろ帰らないといけませんし……探すのを手伝ってもらえます?」
もちろん、とルリアは頷き、サナの名を呼びながらあたりを探してみた。
しかし、近場にはいないようで、まったく彼女の姿は見つからない。
「まったくどこいってしまったのかしら?」
ふうと、小さくため息をついたフェリィを、ルリアは振り返り見た。
「帰ってみる? もしかしたら先に戻っているかもしれないし…」
「そうですね」
いま来た道を戻ろうとしたそのとき。
「まってください、ルリア!」
フェリィが急に立ち止まって、先を行くルリアの服を掴んだ。
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