蒼穹への扉
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 真っ暗な闇。
 何もない。
 だれか、と叫んだけれど、それに返される声はない。
 不意に、頭上より光が降り注ぐ。
 精一杯手を伸ばし、光を掴もうとする。
 そんなことなどできないと頭では分かっていても、そうせずにはいられなかった。
 あの光を逃してはいけないと思ったから。
 ルリアは手を伸ばす。
(あ……)
 そこでルリアは目を覚ました。
 温かい布団、そして柔らかい光。
 ぼうとしていた頭が徐々にはっきりとしていく。それにつれて視界も広がっていく。
 木製の天井がまず見えた。ゆっくりと視線を落としていくと、小さな戸棚と、その上に載っている可愛らしい熊のぬいぐるみが目に入る。
「──目、覚めましたの?」
 透き通った、小鳥のような可愛らしい声。
 空気が少女の声に気持ち良くふるえる。
 ルリアは目を細めた。
 視線を少々右側へ修正すると、一人の少女が椅子に腰掛けルリアの顔を覗き込んでいる。手元には花模様の布が置いてあり、裁縫道具がすぐ脇にあるテーブルにおいてあった。
 明るい亜麻色のつやのある髪、青く澄みきっている瞳、そして透けるような肌の色…。
 年はルリアと同じくらい…いや、少し年下だろうか?
 少女はルリアと目が合うと、ふわりと愛らしい笑みを浮かべて立ち上がった。
「あの…」
 慌てて起き上がろうとしたルリアを制して再び布団に寝かせると、「ちょっと待っててくださいね」と言葉を残し、少女は部屋からパタパタと急ぎ足で出ていってしまった。
 ルリアは小さく息を吐くと、部屋を見回した。
 たいして広くもない部屋に、今ルリアが寝かされていたベッドと似たようなベッドが3つある。
 1つは淡い緑色のシーツがかぶせられ、1つはピンク色の小花が散らされた可愛らしいもの、そしてもう1つはオレンジ色で、枕元に手作りと思われるいくつかのぬいぐるみが置かれていた。
 それぞれの主の趣味が反映されているのかもしれない。となると、さっきの少女のベッドはピンク色のものだろうかと想像し、ルリアは1人クスリと笑った。
「ル…リア……」
 聞きなれた声が背後でした。
 それだけで心が熱くなり、手が震えた。
 ゆっくりと振り返る。
「大丈夫…?」
「───」
「ごめん。遅くなって」
 ルリアは涙ながら首を振った。
 言葉が出てこない。ただただ涙だけがあふれてくる。
 リクシュは黙ってベッドの端に腰掛けた。
 それ以上、かける言葉が見つからなかった。
 ただ自分にすがりつき泣きつづける一人の少女の震える肩を、そっと抱きしめてやることしかできなかった。
「──夢…かな…」
「──」
「もう…駄目かと思った……」
 広大な砂漠の中で自分は死んでいくのかと思った。
 目の前に初めて厳しい現実を突きつけられ、暗い気持ちに覆われた。
 ――リクウェアもいつかああなったしまうのだろうか…。このまま行くと、遠くない未来に外の世界と同じように、リクウェアも滅びていくのだろうか。
 そこまで思い返して、ルリアははっとなって顔を上げた。
「──リクシュ、村は?」
 きっと今頃、村にも追っ手が行っているはずだ。
 少し調べれば、ルリアがあの村へよく出入りしていたことなど分かってしまうのだから。
 そうなれば、きっと――。
 自分のせいで、村人たちがひどい目にあっていないだろうか。あの、地下の空間は見つからずにすんだろうか。――テキスもクイントも無事だろうか……。
「──ごめん、分からない……リクウェアのことも一切分からないんだ……」
「そう…よね…」
 今までリクウェアにいなかったリクシュにわかるはずなどないのに。
 それなのに、本当に済まなさそうに謝るリクシュに、思わず笑いがこみ上げてきてしまった。
 顔をうつむかせ再び肩を震わせ始めた少女に、リクシュはしゅんとしょげる。が、直にルリアが笑っているのだと気づいた。
「ルリア?」
「――リクシュ、相変わらずね」
「――ひどいな……」
 ぼやくリクシュも、ルリアに笑みが戻ったことでほっとしたようだ。自然、顔が緩んでいる。
「そういえば……さっきの子は?」
 思い出したように、ルリアは訊ねた。
 心なしかトゲのあるような気がして、リクシュは首を傾げた。
「ルリア、怒ってる?」
「――可愛い子だったわね」
「?」
「どういうこと?」
 急にルリアが不機嫌になった理由を、ようやくそこで気づいて、リクシュは慌てて手を振る。
「ち、違うよ〜」
「何が違うの?」
「ルリア〜」
「おやおや、何やってんだい? 目覚めて早々ケンカ?」
 突然した声に、ルリアは言葉を失う。
 振り返ると、ぞろぞろと少女が3人、少年が1人立っていた。先ほどの少女もいる。
 その中で、一番年上と思われる少女がルリアに声をかけた。
「どうだい? 気分は」
 背の高いその少女はルリアの顔をのぞき込むようにした。きゅっと長い茶色の髪を後ろで一つにまとめ、緑色のリボンで束ねている。青い瞳はその言葉遣いとは裏腹に意外に鋭い光を宿しており、きりりと少女の印象を引き締めていた。
「顔色は良さそうだね」
「あの……」
「ああ、そうか。『はじめまして』になるのか」
 戸惑うルリアのことなぞお構いなしに、少女はまるで初めて会った者とは思えないような気さくさで自己紹介を始めた。
「あたしはリエル。いちおう、この家の中のすべてを取り仕切っているよ。このちっこい子はサナ」
 少女の傍らにちょこんと立っていた幼い少女の頭をぽんと叩く。
 幼い少女はおそらく十もいくまい。髪の毛を耳の上で二つに結っている。快活そうな笑顔を浮かべながら、短いスカ─トを広げペコリと挨拶した。
「この子は――もう自己紹介したのかい?」
 振り返って先ほどの愛らしい少女に訊ねる。
「あら…ごめんなさい。早く伝えなくちゃと思って、すっかり忘れてましたわ」
 そうして、一歩進み出てルリアの前でにこりと笑う。
「私はフェリィと言います。リクシュたちのお守り役ですわ」
「フェリィ…」
 はぁ、とリクシュが息をつく。
「本当だからしかたない。フェリィがいなかったら、まとまらないもの。リーダー、しっかりしてよ」
 幼いサナがバンとリクシュの背を叩く。
 情けなさそうに頭をかくリクシュを見て、くっくっくっと少年が笑う。
「ああ、そうだ。こいつはレイド。後先考えずに行動する単純バカだから、気をつけたほうがいいよ」
 最後にリエルが少年を指差した。
 歳はクイントより少し上くらいだろうか。プラチナブロンドの柔らかな髪の毛が、まるで絹糸のようできれいだ。少し色黒の肌はとても健康そうで、鳶色の瞳がいたずらっぽそうに笑っている。少年はにやりと笑うと、仕返しとばかりにリエルを指さした。
「これはこんなかで一番うっさいやつ。おまえさんも気をつけたほうがいいぜ」

 
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