息子ハートレイは書庫で、スエレナに手伝ってもらいながら、本の整理をしていた。
「今日のお茶は?」
「見てのお楽しみですわ」
王の問いに、王妃はにっこり笑った。日々のお茶のメニューは王妃直々に選んでいる。
時にはコックにまざって、自らもお菓子を焼くことを好んでいた。そして、今日も王妃自らの自信作のものであり、昨日の夜、スエレナとともに作ったものである。
いつまでも、遊び心と少女のような純真さを失わない王妃を王は眩しそうに見た。
「お前はまるで、ルリアのようだな」
「逆ですわ。私がルリアのようなのではなく、ルリアが私のようなのですよ」
「唯一の救いは、お前がルリアほどお転婆ではないということか…」
王の言葉に王妃はころころと笑った。
「昔は私も随分お転婆でしたもの。それに───」
「それに?」
「私までルリアのようにお転婆でしたら、陛下は今頃、多くの悩みをお抱えになって、恐らくはベッドの上ですわ」
「なるほど」
王は苦笑いしながらも、実際本当にそうならなくて良かったと内心胸をなで下ろした。
「陛下っ!」
その時、兵士が一人駆け込んできた。
さっと王は立ち上がると厳しい顔を兵士に向ける。
「どうしたっ」
王がそう尋ねるよりも早く、外でわーという声が響いた。
とっさに状況を悟る。
「ひとまず奥へっ!」
数人の兵士が続いて入ってくる。
「早くっ」
王はとまどう王妃の腕を半ば強引に引き、奥の部屋へと移動する。
不安そうに自分を見上げる王妃に、王は「大丈夫だ」とだけ言うと、自分も剣を手にする。そうして、初めに入ってきた兵士に状況の説明を求めた。
「それが、気がついた時には城を囲まれておりまして…」
「東部地区からあれだけの人数が移動してきたんだ。分からなかったということはないだろう」
「いえ、それが全く分からなかったのです」
「東部地区を監視していた者がいるはずだ」
「はい、おります。ですが、そのような連絡は正午の時点では全くございませんでした。東部地区からここまでどんなに急いでも徒歩で五時間はかかります」
「馬でならそれほど時間はかかるまい」
「いえ、馬を使った形跡はございません」
「そんなばかな!ではどうやってここまで来たというのだ!」
「キャアッ」
鋭い悲鳴と共にバタンと背後で大きな物音がした。はっとなって振り返った王は、信じられない光景を目にした。「ああ」と思わず声がもれる。
王妃の喉元には、美しく光を受けて輝く剣が突きつけられていた──。一人の青年が傍らで静かに立っている。 |