「俺はお前とは違うっ。お前のように、人を殺すことをなんとも思わないヤツとは違う!」
少年は叫ぶと同時に服の下に隠していた銃をさっと取り出した。
バン……
乾いた銃声が聖堂の中に再び響き渡った。
「バカじゃ…ねえの……」
己の頭蓋を打ち抜いた少年を見下ろしながら、セヌエフは抑揚のない声で呟いた。
あのときからかもしれない。
セヌエフが「神」というものを信じられなくなったのは。それまでも決して敬虔な信者だったわけではない。
それでも長い年月かけて、生活習慣を密接な関係を作り上げていた宗教と言うものに対して、何の疑問も抱くことなく生きていた。
だが、自分の目の前で命を絶った神父、そしてかつての仲間のことを思うたびに、セヌエフの心はなぜかある種の虚無感でいっぱになるのだ。
信じるものが救われるだと?
ふざけるな。
あの神父は神を信じていた。死ぬ間際まで。神に祈っていた――。
だが、オレに殺された。
そう、オレが殺したんだ。
信じるものが救われることなんてない。
この世の中、神なんて存在しない。少なくとも、オレには存在しないんだ。
信じたって、何も変わらない。
望んだって、何も叶わない。
だったら、信じなければいい。
神も他人も。
望まなければいい。
神にも、他人にも、そして自分にも――。
「感傷か?らしくないな」
背後の声に振りかえれば、そこには長身の銀髪の男が立っていた。
男はひどく冷たい光を宿した瞳を細めると、醜く笑った。
「別に……」
答えかけて、セヌエフは見えぬ力に首を締めつけられた。
「余計なことは考えぬことだ。お前はお前がなすべきことをすればいいだけ。お前は何がしたいと言った? そのことを決して忘れぬことだな」
スッと首にかかっていた力が消える。セヌエフは激しく咳き込みながら、ギロリと男をねめつけた。
「しばらく姿を見せないと思ったら、突然何をしに来た? トゥティノ」
「ことを起こすには準備というものがいるのでな」
「――…」
「臆したか?」
セヌエフは何も答えぬまま、くるりときびすを返した。
「オレが望むもの、ほしいものをくれるんだろ? 約束は果たしてもらうぜ」
トゥティノはセヌエフの答えにひどく満足したように、クッと笑うと、ふわりと一瞬にしてセヌエフの前に現れた。
「やりたいだけやればいい。お前が心から欲していること、今こそこの大地で叶えるがいい」
そういい残すと、現れたときと同じように、風のように男は姿を消した。
セヌエフは、リクウェアの大地を見下ろしながら呟いた。
「そろそろ――だな」
風向きが変わった。
――お前が望むものをやろう――
トィティノがささやいたひとことで、自分は今ここにいる。
(壊してやる、すべてを)
幸せなやつらの顔を見ているだけで腹がたった。
この国に来て、外の世界のことも知らず、のうのうと暮らしているやつらを見て、そんな思いがさらに高まった。
憎い。すべてが。
何もかもが憎かった。
そうして、セヌエフは自分が今何をしたいのかはっきりと自覚した。
(壊してやる。この国のすべてを壊してやる)
「幻の国」だ、「緑の国」だといわれ、外界のものたちの憧れの的となっているこの国。
リクウェアを壊してやったら、外の世界のようにめちゃくちゃにしてやったら、さぞかしすっきりするだろう。
だが、セヌエフは気づいていなかった。
どうしてそれを己が望むのか。
どうしてリクウェアを壊すことが己の望みなのか。
ヒュウウと悲しげに大地を風が駆け抜けていく。
それはまるで、これからリクウェアに起こる異変を人々にそっと教えるかのような風だった……。
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