正面に大きな女性を描いたステンドグラスが一つ。そして、両脇には幾何学模様と幼い子どもを描いた小さなものが二つ並んでいる。正面のものはこの地方で崇められているクルファラーという聖母のものだった。長い銀の髪を持つ聖母は優しい微笑を湛え、静かにセヌエフを見下ろしている。
なんだかその視線に居心地の悪さを感じたセヌエフが入ってきた扉を振り返ったときのことだった。
「何をしにいらしたのですか?このようなところへ」
黒い装束をまとった神父が一人ゆっくりとセヌエフの方へと近づいてきた。
セヌエフは突然のことに内心は驚いたものの、それを表に出すことなく、逆にキッとなって神父をにらみつけた。
「ここに逃げ込んだヤツがいるはずだ」
「――ここは聖なる場所です。そのようなものを人に向けるのはおやめなさい」
己に向けられる銃にたじろぐこともなく、神父はどこまでも穏やかな声でセヌエフに語り掛けた。
「ふざけるな、おまえ、知っているんだろう? ヤツを出せ。そうすればお前は見逃してやる」
神父はそこで静かにため息をつくと、セヌエフの横を通りすぎ、正面のステンドグラスの前へと歩み寄っていった。
「あなたはどうして銃を取るのですか?」
セヌエフを振り返り神父は訊ねる。
セヌエフは答えに詰まり、口を閉じた。
銃を取る理由――? そんなものあるわけないのだから。幼い頃、両親の元からさらわれ、少年兵として教育された。気付けばいつもそばに銃があり、自分はそれを手にしていた。理由などそこにはない。理屈が通じる世の中でもなく、「殺せ」といわれればそうするまえのことなのだから。
「あなたは理由もなく、それを手にしているのですか?」
「――……」
「己を守るためでもなく、ましてや誰かを守るためでもなく……それではあなたは何のために戦っているのですか? 名誉がほしいのですか? 財産がほしいのですか? それとも……」
「だまれ黙れ黙れだまれええっ!」
神父の言葉をさえぎるように無我夢中でセヌエフは銃弾を打ち放った。
ゆっくりと床に倒れこむ神父の身体。
呆然とその場にたたずむセヌエフに向けて、神父は血まみれの手をさし伸ばした。
「あなたは何のために……戦っているのですか?」
ゴフッと鮮血を吐く。
「神のご加護があなたにもありますよ…うに…。あなたがいつか本当に『あなた』を見つけることが……できます…ように…」
微笑みながらセヌエフにそう言葉を残すと、静かにその場で息絶えた。
「神父様っ!」
少年が物陰から飛び出したのはそのときのことだった。
血まみれで倒れている神父を抱え起こす。
「俺の……俺のせいで……」
瞳にいっぱいに涙を浮かべながら、何度もその耳元で謝った。だが、神父のまぶたが開かれることは二度となかった。
「セヌエフッ!」
青ざめた顔で少年は叫んだ。
「お前は人間ではないのかっ」
少年の言葉にセヌエフは目を見開いた。が、それは一瞬のこと。いつもの冷酷な瞳に戻ったセヌエフは鼻でフンと笑った。
「お前は人間なのかよ?」
問われた少年は驚きのあまり言葉を失った。
「そうやってすべてを他人のせいにして逃げ込んでいるお前も、オレとたいして変わりないんじゃねえの?」
「そんなこと!俺はお前とは違う!」
「どこが違う? お前もここに来る前には人を山ほど殺しただろう? お前の手もオレと同じさ。ほら、今だって真っ赤な血で汚れているじゃねえか」
少年は自分を手を見、ぎゅっと下唇と強くかみしめた。 |