王はテキスに村での話を求めた。テキスは王の求めに応じて、様々なことを話して聞かせた。花車のこと、祭りのこと。王は喜び、大いに笑った。
食後のコーヒーを飲んでいたときのこと。
それまで村での話を聞き、上機嫌であった王の顔がふいに曇った。
「ときにテキス、村で妙な噂は聞かなかったかね?」
「妙な噂、ですか?」
ふと横を見ればラマニオの顔からも笑みが消えている。
何かとんでもないことが起こりかけている、と悪い予感がテキスの体を駆け抜けた。
噂──テキスは村で聞いた数々の噂の中で、直感的に王や父が求めているものを判断した。
「東部地区の話、ですね?」
テキスがそう切り出す。
「──そうだ」
ラマニオが王にに代わって答える。
「近頃、東部地区の様子がおかしい。だが、彼らが何を考えているのか私たちには分からない」
「──彼らは武器を造っているようです」
「なんと…」
王は目を見開き言葉を失う。
「外の世界の武器をいくらか持ち込んでいたようで、それを元に武器を製造しているらしいという噂が流れています」
「やはり、そうであったか…」
「ご存じであったのですか?」
ハートレイがコ─ヒ─を口に運ぶ。一口飲んで静かに、カップをテ─ブルに置くと、静かに言った。
「では、これはご存じですか。その武器が市街に出回っているということは──」
王は静かに頷く。
テキスのほうははじめて聞く話に、口をぽかんと開けている。隣の父親に肘でつっつかれ、慌てて我に返った。
「銃という武器が主に出回っているようです。リクウェアでは珍しいものですから、かなり高値で売れるらしいですね」
「そして、その資金で更なる武器を製造している、というわけか」
「──どうするおつもりですか?」
それで頭を悩ましておるのだよ、と王は溜め息をついた。
取り締まろうにも、やり方が狡猾なのだ。
今までも、リクウェアに全く銃がなかったわけではない。数は少ないが、外の世界から商人が持ち込んではいたのだ。しかし、この銃に関してはことさら取り締まりが厳しく、武器としての持ち込みは禁じられていた。あくまでも「飾り物」の一種として商人は持ち込み、リクウェアで売っていた。購入するものも厳しく管理されており、国の許可と定期的な届け出が必要であった。
流入者たちも、「飾り物」として銃を製造し、売っているのだ。ただし、国の許可を受けていないため、それらは闇で売買されていた。どこで誰が売っているのかは分からないし、どこの誰が買ったのかも分からない。売買されているという確かな証拠もない。しかも、万が一の事態を考えて、許可証を偽造までしている。国としてはどうすることもできないのだ。
「彼らが何を考えているのか、分からないのだ」
「彼らは──」
テキスは昨日のクイントの言葉を伝える。
この国は『平等』と言う。だが、現実的にはそれはありえない。王家がいる。商人がいる。農民がいる。そして兵士がいる。みな生活が異なる。『平等』なんて表面的なことに過ぎない。自分たちの国がそうだったように、この国もそうにちがいない──。
ルリアやハートレイのように、気軽に村や街に行っては民と一緒になって時間を過ごしているなんてことは、想像もしない。
「彼らは、この国の現状を快く思っていません。外の世界では、この国のことを『幻の国』だの『緑豊かな平和な国』だのと呼んでいるようですから。なのに…」
来てみれば、この国はどこでもありそうなただの「国」だった。地形のおかげで、確かに緑は多い。そして戦もない。だが、やはり自分たちの国と同じように、上に立つものおり、働かなくては日々の糧は得られない。当たり前といえば、当たり前のこと。しかし、どこかで間違った幻想を抱いてしまった人々は「何かが違う」と感じざるを得なかったのだろう。
この国のあり方に不満を持つ者たちが求めるとすれば――
「この国そのもの、か…」
己の幻想を真実にするために。リクウェアを自分たちが夢見た「国」とするために、彼らはいずれ動くだろう。いや、もはや動き出しているのかもしれない。
王は呻く。
あまりにも違いすぎる、流入者とわれらの考え…。溝は埋まることはないのか──。戦で国を失って、この国へやってきた者たちは、この地で再び戦をしようというのか。
「陛下、取り敢えず城の兵士を増やします。それから、それぞれの村にも万が一に備えて戦の準備をお伝え下さい」
「──戦ではない解決策はないのか」
「彼らは、我らの呼びかけに応えましたか?今まで私たちは十分すぎるくらい共存を呼びかけてきました。私も戦は避けたい。だが、こちらがしたくなくとも、向こうにその気があれば仕掛けてきましょう」
王は肘をテ─ブルにつき、あごを乗せ黙っていた。
三人は王の決断を待つ。
遠い昔の苦い記憶が王によみがえる。今は平和となったリクウェアにもかつて起こった戦。たくさんの血が流され、そしてたくさんの大切なものを失った。
今の平和は多くの犠牲の上に成り立っている。国の民の多くはすでに戦を知らぬ世代。歴史書でしか知ることができなくなってしまっている「戦」。その戦がまたこの大地で起こってしまうのだろうか――。
重すぎる決断。
長いときが流れたように思えた。 ふと、王は顔をあげる。
「約束してくれ──こちらからは決して手出しはしないと」
「もちろんでございます。こちらに戦をする理由はございません」
王は立ち上がり、近衛兵団の長ラマニオ・フェルジャンに命じた。
「城の兵を増強せよ。街の巡回も増やせ。それぞれの村長に武器の確保を伝えよ。ただし、民には伝えるな。余計な混乱は避けよ」
「はっ」
一礼して、ラマニオ・フェルジャンは部屋を出ていった。テキスも立ち上がると王に一礼し、ハートレイに軽く手を挙げて挨拶をすると、父の後を追って部屋を出ていった。
二人が去った後、ハートレイは冷めたコ─ヒ─の入ったカップをもてあそびながら、呟いた。
「戦にならぬことを祈るしかないようですね……」 |