「使わないわけじゃない。武器の主流はおれたちの国でも剣だった。だが、金のあるやつらは銃を使う」
「じゅう?」
「銃っていうと、あの鉛のやつだな」
「そう。その銃だ。──この国も……」
クイントは一瞬、テキスの鋭い視線を感じた。テキスの瞳の奥にある意味を悟り、とっさに言葉を変える。
「だが、おれの国を滅ぼしたのは銃じゃない。一瞬にして、街を廃墟に変えることができるものだ」
「街を一瞬?」
ルリアは気づかない。クイントは何事もなかったかのように頷き、話を続ける。
「おれも一体何が起こったのかはわからなかった。ふと気づいたら一瞬で街は消えていたんだ。──何もかもがな」
クイントは顔を歪める。知らず知らずのうちに右手で右目を抑えている。──古傷がうずく。戦の結果失った右目。あの時のことを思い出すたびに、心が──痛い……。
「クイント?」
「──ここでは考えられないだろう?そんなにも外の世界とここは違うんだ」
ここは夢の国──
おれたちが夢にまで求めていた国──
だけど…
「ルリア、この国は『平等』、なんだよな?」
「───ちがう?」
「何が『平等』なんだ?」
「それは───」
ルリアは一瞬言葉につまる。
「確かに、この国は『平等』だ。外の世界に比べればな。だけど、ルリアのような王家がいる。やっぱり『平等』じゃない──お前たちのことをよく知らないやつらはそう思うんだ。自分たちの故国を重ね見てな」
ふいにテキスの表情が緩んだ。いつものひょうきんなテキスの瞳に戻る。
「『お前は』知らないんだな。分かった。悪かったな」
「いいえ、お役に立てずにすみません」
「おれの役じゃない、王女の役だよ」
さてと、と言って本を持ち上げる。
「書庫に持って行かなきゃならねえんだろ。さっさとすまそうや。おりゃあ、腹減って死にそうだ」
本を書庫に運ぶのに、ハートレイと地下を三往復した後で、テキスとハートレイはそろって昼食をとるために、大広間に入った。
「げっ」
入った途端、テキスは後ずさりをする。
テキスの後から部屋に入ったハートレイは、ひょいとテキスの背から前をのぞいた。
「ああ、これはラマニオおじさまでしたか。おひさしゅうございます」
そこには、国王の父と共にハートレイの父親ラマニオ・フェルジャンが昼食をとっていた。
テキスに似た緑の黒髪にところどころ白髪が見える。それとは対照的に口髭には白髪は見えない。双眸は鋭く、どんな獲物も逃がさないといった雰囲気はさすが親子だと思わせるほどテキスと似ていた。
少々やせ方ではあったが、決してひ弱には見えず、しっかりとした体躯をしている。さすがはリクウェア国をあずかる近衛師団の長であると納得してしまうような威厳ある風貌だ。
テキスは彼の長男であった。テキス以外にも何人か息子たちはいたが、その兄弟の中で一番剣のセンスがあるとかで、幼い頃からテキスはそれはそれは厳しい訓練を受けたらしい。やりたい放題やっているテキスも父親にだけは頭が上がらないという。
さて、部屋に入ったテキスは。格別彼の存在に驚きもせずにラマニオに笑顔を向けているハートレイを見て、「知っていやがったな」とじろりと王子をにらんだ。が、ハートレイは大して気にもとめず、ラマニオに近づくと軽く会釈した。
「ご一緒しても構いませんか?」
「どうぞ。おひさしゅうございます。ハートレイさま。いつも私のせがれがご迷惑をおかけしております」
「いえいえ」
ハートレイはそこで扉の方を振り返り、そこで突っ立ったままのテキスに椅子を勧める。
「なんで、親父がここにいるんだ」
ぶすっとしているテキスを、ラマニオは睨み付けた。
「私が呼んで来ていただいたんだよ、テキス」
王が笑う。
「いつもすまないね。ルリアの供を頼んでしまって」
テキスの労をねぎらい、王は礼を言った。
「いえ、王女にはずいぶんと楽しませていただいていますので」
王を前にして、悪びれもせずいけしゃあしゃあと言ってのける。となりでテキスのことを小突くラマニオを見て、王は「気にしなくてよいのだよ」とにこやかな笑顔を向けた。
「実際、あの子はとんでもないことをしてくれるからね。それを楽しいと思ってくれるだけで私は救われる」
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