流入者たちにしても、好き好んでリクウェアに来たわけではなかった。ここに来るしか自分が生きる方法がなかったのだ。
両者の間にはいつしか溝ができていた。
戦を知らぬリクウェアの民が、激しい戦を経験した流入者たちの心を分かることはできなかった。生きることで精一杯の流入者たちは、森ひとつに躍起になっているリクウェアの民の心を理解することは不可能であった。
基本的に流入者たちはそれぞれの村に振り分けられていた。同じ村に住む以上、わずかなすれ違いがいさかいになる。少数である流入者たちはいつしか村人たちと距離を置くようになり、国の東の片隅に流入者たちの村を築くものも現れた。
東部地区は、岩石地帯であり、そのため、民がこの辺りに住み着くこともなかった。流入者たちはそこに住み着き始めたのである。
「なぜ?彼らは村に──」
「みんながみんな村に住んでいると思っていたのか?おれのような人間もいるが、大抵はこの国の生活に慣れず、東部地区に住み移ると聞いた」
そんなこと、今まで聞いたこともなかった──。
どうして?だれもそんなこと教えてくれなかった。いや、そんなことはどうでもいい。私は結局、自分の国のことすら知らなかったのだ。外の世界のこともあまりよく知らなかった。だが、こんなにも慣れ親しんでいた自分の住む国の変化すら自分は気づかないでいた──。
うつむくルリアの頭をくしゃっとテキスがなでる。
「王女が知らないのも無理はない。みんな隠していたんだ。王女には知られたくないってな」
「どうしてっ」
「知れば、王女は傷つく。『自分は王女なのに、何もできない』ってな。下手すれば、王女は無茶なことをしかねない。だから、王女の前では言わなかったんだろう」
ルリアは何も言わずに顔を膝にうずめる。
私は無力だ…。私は無知だ…。
「ほらな、王女、そうやって自分を責めるのはよしてくれ。おれが悪いことをしたような気分になる。王女は悪くない。このことに関してはだれも悪くない。強いて言えば、この状況をつくり出した戦争ってやつがいけないんだ」
「──だが、その戦争を起こしたのは人間だ───」
クイントは湖の方を見つめたまま言葉を続ける。
「さらに言うなら、この国は平和『すぎる』。その上、自然を大切にするあまりに、人間の生活の発展が最小限に抑えられている。はっきり言ってしまえば、おれたちのような外からきた人間の世界の文明とは差がありすぎるんだ。外の文明の品があまり入りこまないようにされていたみたいだしな。──ルリアは知っているか?おれたちの国がどうやって滅んだか」
ルリアは首を横に振る。
「戦争っていっても、いろいろある。戦争で使われる武器もいろいろある。この国には、武器はどんなものがある?」
「まずは、剣──」
「そう、まずは剣、この時点ですでに外の世界とは違っているんだ」
「剣を使わないのか?」
興味深げにテキスが尋ねる。
「使わないわけじゃない。武器の主流はおれたちの国でも剣だった。だが、金のあるやつらは銃を使う」
「じゅう?」
「銃っていうと、あの鉛のやつだな」
「そう。その銃だ。──この国も……」
クイントは一瞬、テキスの鋭い視線を感じた。テキスの瞳の奥にある意味を悟り、とっさに言葉を変える。
「だが、おれの国を滅ぼしたのは銃じゃない。一瞬にして、街を廃墟に変えることができるものだ」
「街を一瞬?」
ルリアは気づかない。クイントは何事もなかったかのように頷き、話を続ける。
「おれも一体何が起こったのかはわからなかった。ふと気づいたら一瞬で街は消えていたんだ。──何もかもがな」
クイントは顔を歪める。知らず知らずのうちに右手で右目を抑えている。──古傷がうずく。戦の結果失った右目。あの時のことを思い出すたびに、心が──痛い……。
「クイント?」
「──ここでは考えられないだろう?そんなにも外の世界とここは違うんだ」
ここは夢の国──
おれたちが夢にまで求めていた国──
だけど…
「ルリア、この国は『平等』、なんだよな?」
「───ちがう?」
「何が『平等』なんだ?」
「それは───」
ルリアは一瞬言葉につまる。
「確かに、この国は『平等』だ。外の世界に比べればな。だけど、ルリアのような王家がいる。やっぱり『平等』じゃない──お前たちのことをよく知らないやつらはそう思うんだ。自分たちの故国を重ね見てな」
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