さすがのクイントも幼い子供たちを無下に扱うこともできず、されるがままに引かれて行った。
「あ、来た来た!」
彼らの行く前方で、ルリアがこちらに気づき、手を上げている。
「お前ら――」
「ん?」
リクシュはうつむき加減でいるクイントを見た。
「図ったな…」
リクシュは答える代りに、にっこりと笑って見せた。
「ちっがーう!」
「えーこうだよ」
「何やってんだよ、王女」
「テキス聞いてよ。リクシュったら」
「ルリアこそ違うんだよ」
「ああもう、ごちゃごちゃ言ってねえでやれよ」
花車作りを始めたものの、いっこうに先に進まない。すでに日は南中し、村人たちが用意してくれた昼食ももう胃袋のなかである。それなのに、花車のほうは、未だ荷車の原型を止めており、とてもではないが花車といえる代物にははるか遠い。
「とてもじゃないが、間に合わねえな、これじゃ」
ふうとテキスはため息をつく。
村の子供たちは傍らで黙々と花飾りを作っているが、荷車一杯に飾るとなると、十人や二十人で二日で一体どれほどできるというのか。花車には、荷車といっても馬で引くあの大きなものを使うので、かなり大きい。さらに、四方の角に柱を立て、屋根を作ることにもなっていた。全ての花車がそのようにするわけではないのだが、今年村で作ろうとしていたものがそのようなタイプのものであったらしい。最後の手段としては屋根など無くしてしまっても構わないのであるが、やはり折角作るのであるから、凝ったものを作ってみたいというのは誰しも持つ感情であろう。
「屋根はやめたほうがいいぜ」
「でもっ」
「中途半端なものを作るより、屋根無しでも立派なもんを作ったほうがいいだろう?」
テキスの言葉に、ぐっとなる。
「花飾りがとてもじゃないが間に合わない。王女もそれは分かるだろう?」
こっくりと頷くしかない。
「分かったわ。屋根は諦めましょ」
ルリアはストンとその場に腰を下ろす。
「――花じゃ駄目なのか?」
今まで何もせず、ただ村の子供たちに囲まれていたクイントが呟いた。
「え?」
リクシュが聞き返す。
「いや…花じゃ駄目なのか?」
「花――?」
「おはな?これ?」
クイントの側にいた幼い少女が、自分が今作り上げた紙の花を差し出す。
「いや――」
こっちだ、とクイントは傍らに咲いていた花を摘んで、少女に手渡す。
ポンとリクシュは手を叩くと、何度もこくこくと頷いた。
「そうだっ。花を使えばいいんだ」
ルリアもぱっと立ち上がると辺りを見渡す。湖の辺には数えきれないほどの花々が咲き乱れている。これは使える、とルリアはにっこりとご満悦である。
「祭りまでの時間がないぶん、本物の花が使えるわ」
「――本気か?」
テキスは事の成り行きに、目を瞬かせている。
「とりあえず、土台だけ作っておきましょう。柱と、屋根と――」
そういって早速材料をかき集めに村人の方へと、数人の子供を引き連れて走り出す。
それを見送って、リクシュはクイントの隣に腰を下ろす。
「お手柄だね」
「いや――以前に作ったことがあるんでな」
「花車を?」
「ああ…」
そのとき、「はい」と少女が花輪をクイントの首にかけた。突然のことにぱちくりしていたクイントだったが、ふいに顔が緩んだ。少女もにっこりと微笑む。
こういうのもいい――クイントはそう思いはじめていた。
故郷のことを忘れることはできない。でも、昔のように、アネットや仲間たちが生きていた頃のように、また生きなおしてもいい――。
「あ、来た」
ルリアたちが沢山の板や丸太を抱えてきた。
リクシュは立ち上がり、ルリアの元に手伝いにいこうとして、振り返ってクイントに一言「行こう」と声を掛けた。さりげないリクシュの一言にクイントは思わず立ち上がっていた。
「――こういうのもいい…」
そう呟くと、クイントはリクシュの後について歩きだした。
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