|
1
「花車はもう無理ですな…」
「今年はあきらめましょう」
村が火事に襲われた翌日、ルリアが村を訪ねると、こんな風に話が進められていた。
「この村の花車はきれいだって、評判だからな。さぞかしみんな残念がるだろうな」
村人の言葉を耳にしたテキスが、ルリアの傍らでポツリとつぶやく。
今朝、ルリアは王妃に断って城を出てきた。前日のことがあったので、さすがに黙って村へ行くのはまずいと思ったのだ。
ルリアの言葉を聞いた王妃はにっこりと微笑むと、許可を与えた。ただ、一つだけ条件を付けた。それは「テキスと共に行くこと」ということであった。
ルリアが王妃の部屋を出ると、廊下でテキスが待っていた。
「王妃殿に頼まれたんでね」
ルリアはすっかり心の内を母親に見抜かれていることに気づいた。今日、ルリアが必ず村へ行きたいと言いだすに違いないとふんだ王妃は、予めテキスの元に使いをやり、ルリアの供を頼んだのだ。
「おはよう、ルリア」
今日は早いんだね、とリクシュが声をかけた。
「リクシュこそ、珍しく遅かったわね」
「ちょっとね…それより花車、どうするって?」
「――今年はもう無理だって…」
考え込むルリアを見て、一言リクシュはこう続けた。
「ルリアはどう思うの?」
「わたし?」
こくりとうなずく。
「わたしは…」
「王女、言いたいことは言った方がいいぜ」
テキスは村人たちの方を見たままで、ルリアに言う。
「おれも出来ることは手伝う。そのつもりで今日は来てんだしよ」
「ぼくもやるよ」
「――…」
二人の言葉に少し考え込んでいたルリアだが、しばらくして顔を上げると一言「わかったわ」と小さくうなずいた。そして村人たちの輪の中に入っていった。
「ねえ…まだ二日あるわ。やるだけやらない?一年に一度の楽しみでしょ?」
ルリアの突然の言葉に、今年の花車はあきらめようということに路線を決めていた村人たちは、驚いた。
「でも、ルリア様。たった二日ではろくなものはできん」
「できないかどうかはやってみなければ分からないんじゃない?」
「ルリア様。村は火事にあったんじゃ。祭りまでは、火事の後始末で手が一杯だ。とてもじゃないが、花車の製作に手は回らん」
「――…」
確かに、火事で焼け出された人々がいる以上、のんきに花車作りなどやっていはいられないであろう。三日後の祭りのことより、今は村を立てなおすことが先決である。
やはり今年は無理か、と諦めかけたときだった。
「わたしたちがやるんじゃだめ?ひめねえさま」
くいっと袖を引っ張られ、そちらに目をやると、遠くで大人達の会話を見ていた子供たちが、いつのまにか近寄ってきていた。
「村の花車はぼくたちがやるんじゃだめなの?」
子供たちの言葉を聞いて、テキスが助け舟を出した。
「花車は子供たちに任せてくれないか。おれが責任を持つ」
「テキス…」
ルリアはテキスを見上げる。
「子供たちにまつりの準備を任せれば、大人は火事の後始末に専念できる。違うか?」
「それはそうだが…テキス殿にそんなことを任せては…」
「おれがやりたいって言ってんだ。何も強制されてやらされるんじゃねえ。それとも、おれでは力不足で心配か?」
テキスの言葉に村人たちは「いえ」と口ごもる。
「皆の衆。ここはテキス殿たちと、子供たちに任せてみてはどうか」
今まで口を挟むことを控えていた長老がそういうと、「では…」と、村人たちもテキスたちに任せみようという気になったらしい。テキスに花車の製作を頼むと、それぞれ火事の後始末にかかった。
大人達がその場を離れると、子供たちがルリアの回りに集まってきた。ざっと数えて二十人くらいはいるだろう。
「で、どうするの?」
ルリアが責任者を名乗り出たテキスに方針を伺う。
「――おれに聞いてもなあ…」
ちょっと待ってとルリアはテキスの顔をぐいと睨みつけた。
「あなた、花車作ったことは?」
「あると思うか?」
さらっと言ってのけるテキスにルリアはあきれた。
「でも、いつも祭りの前には来てたじゃない」
「おれ?」
「そう。いつも城の花車を作っているでしょう?」
「おれが作っているのは花車の装飾だけ。ま、それも大抵ハートレイに言われたとおりにやってるだけだから、装飾の方もはっきりと作り方を憶えているわけじゃねえし」
王女こそ、毎年やっているんじゃないか、とテキスは反撃にかかる。
「わたし?」
「そう」
「わたしが花車作りにかかるころには、花車の本体は出来あがっているわ」
「毎年?」
「そう。毎年。兄様とスエレナが知らない間に全部やっちゃってるのよ」
「――あのさ」
二人のやりとりを聞いていたリクシュが口を挟んだ。
「つまり、二人とも花車は装飾以外やったことがないんだね?」
「そういうことかしら」
「ま、そういうことだな」
ふうとリクシュはため息をつく。
「花車の土台がなくっちゃ何にもなんないじゃないか」
「どうする?」
「どうするかなあ」
最初から躓いているルリアたちに、一人の少女が近づいてくると、ルリアの耳にそっとささやいた。それと同時にルリアの顔が引きつる。
「どうした?」
「――村の花車はいつも荷車を使っているみたい…」
「あ、なるほど」
ぽんと手を打つと、次の瞬間テキスは荷車を取りに共同の小屋へと走っていた。
「――城のもそうだったのかしら?」
「多分ね…」
「どうりで知らない間に出来ちゃっているわけだわ」
――こうして子供たちにより花車作りが始まった。
|