3
三つの隠し通路から、大きな喊声とともに一斉に人々がなだれ込む。
今まで沈黙を保っていた者たちが一気に押し寄せて来たのだ。城にいた者たちはことの急展開にうろたえた。慌てふためき武器を手にすることも忘れ、ただただ自分の身を守ることに必死になり逃げ惑う。
かろうじで態勢を整えたものたちもいたが、それもつかの間のこと。今度は別の場所から攻め込まれる。かと思いきや、しばらくすると今度は正門からときの声が聞こえた。
城にいた多くの兵士たちの中にはもともとはリクウェア国の者もいた。だが、自分の身の保全を第一に考えた末、トュティノの下にくだった者たちが大半であった。
「――なんだか複雑な心境だよな」
レイドは向かってくる兵士を風の力で軽々と吹き飛ばすと、うなった。
大きな力を前にして、その下につくことを選んでしまった者たちを責める気持ちにはなれなかった。
「――…」
「許せないか?」
苦虫を噛み潰したような顔をしているクイントに問いかける。
「おれがとやかくいうものじゃない」
己が祖国を裏切ったことで、一番苦しむのは本人だ。罪は自分が一番しっているのだから。
レイドはふうん、と言うと、異変に気づき向かってきた兵士に、再び風の刃を放った。
「ちょっと、手加減しておきなよ。あんたと違って普通の人なんだから」
「分かってらい」
「こっちだ!」
正門からテキスたちが攻め込むのとほぼ同時に、ルリアたちは隠し通路から城内へと入った。その後は一直線にトュティノとエビドュの気配がする場所へと向かっていった。目指すは――ルリアが幽閉されていた塔。確かにそこから強い気が感じられた。
間違いない。そこに彼らはいる……。
ルリアたちは一気に階段を駆け上っていった。と、塔の半分くらいまで来たところで、その行く手を遮る影が現れた。
「――セヌエフ…」
影の名をクイントが口にする。
「ここから先には進ません」
セヌエフは銃を手にしている。が、クイントの顔を見ると、銃を床に放り投げ、床においてあった2本の剣を拾い上げた。そのうち一本をクイントの足元に投げて寄越す。
「さあ、剣をとれ」
クイントは何も言わずに剣を拾い上げる。
「クイント…」
フェリィの不安げな声に、クイントはなぜか微笑む。
「さがっていくれ」
それとほぼ同時にセヌエフが切りかかってきた。
剣が激しくぶつかりあう。鋭い音が響いた。
「流入者のくせに、なぜそいつらの味方をする!」
セヌエフは言い昂る。
「『流入者』だからだっ」
セヌエフの剣を受けながら、クイントは叫んだ。
「『流入者』だから、おれは今のお前たちが許せない」
セヌエフの表情が動く。
「おれはもう大切なものを失うのは嫌なんだっ!」
クイントの強い言葉に、セヌエフの力が一瞬緩んだ。その機をクイントは見逃さなかった。ぐいっとセヌエフの剣をはじき返すと、そのまま切り返す。同時にてのひらから光をセヌエフのみぞおちに向けて放った。
セヌエフはそのまま崩れ落ちる。
クイントは肩で大きな息をし、肩膝をついた。フェリィが駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ああ…」
クイントは自分のてのひらを見つめる。ぎゅっとこぶしを握り締めると、倒れているセヌエフを見下ろした。
「―――殺ったのか?」
レイドの問いにクイントは首を横に振る。
「殺してはいない」
クイントは立ち上がると、後ろに控えていたリクシュたちを振り返り見る。
「行こう」
リクシュたちはうなずくと、倒れているセヌエフの横を駆け抜けた。
朦朧とした意識の中で、ばたばたと遠ざかっていく足音を聞いた。
しんと静まり返る。
(生きて…いる……)
セヌエフは両手を高く上げる。
なぜ自分が今もこうして生きているのか、理解できなかった。
しばらくしてから静かに身体を起こす。
確かにあのとき切られたと思った身体には大した傷もついていなかった。
―――おれはもう大切なものを失うのは嫌なんだっ!――
おれは大切なものを切り捨てていたというのか……。
セヌエフは床に放った銃を手にした。
でも――
もうおれは元には戻れない。
もう遠い過去のあの日には戻れない。
全てが変わってしまった。もう昔の自分には戻れない。
一筋の涙がほほを伝う。
「クイント……」
目を閉じる。
懐かしい日々…。
子供に戻りたい。あの忌まわしいことが起こる前に戻りたい…。
人生をやりなおせるなら、子供からやりなおしたい…。
こんな形で会いたくはなかった。あの戦さえなければ、こんなことにはならなかったはずだ。あの戦さえなければ――。
涙が溢れてきた。
「かあさん……」
背後で銃声が響いた。
クイントは足を止めて振り返る。
「どうした?」
レイドがクイントを促す。
「いや――なんでもない」
クイントは目を細めて階下を見る。だが、再び前を向くとみなの後を追った――。
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