再び目を覚ましたときには、すでに夕刻をまわっていた。
その後、夕食だと呼びにきたクイントの後について家の外に出ると、にぎやかな声が聞こえてきた。
見れば、ちょうど広場のようになっている場所で村人たちが輪を作っている。
その側には大きななべがいくつか置かれ、女たちが器に中身を手際よく入れていっていた。
クイントに言われるまま、切り株でできたいすに腰を下ろした。そうして、クイントが持ってきてくれた器を受け取る。
「毎日こうして?」
「いや、今日は特別だろ」
何が、と問う前にそれはわかった。
次から次へと村人たちがフェリィの周りに集まってきたのだ。
「おまえさんが、リクシュのお仲間?」
「ルリアさまは無事なの?」
「リクシュはいつ帰ってくるの?」
矢継ぎ早に投げかけられる質問に、フェリィは驚きながらも、笑顔で一つ一つ丁寧に答えていった。
どの村人も、みな一様にリクシュやルリアのことを心の底から心配しているのだと知れた。
「これこれ、そのように一度に訊いてもわからんだろう」
テキスに支えられるようにして、村長が現れた。
「長!」
子どもたちがわっと村長の周りを取り囲んだ。
そうして、ゆっくりと用意されたいすに腰をおろした。
すぐさま、長のために温かい食事が用意され運ばれてくる。
温かいスープを一口含んだ後、村長は満面の笑みで村人たちに告げた。
「ルリアさまは無事だそうだ。もちろんリクシュも」
わあ、と村人たちの顔にも笑顔が広がる。
よかったよかったと涙ぐむ者さえいた。
それを見たフェリィの顔も知らずほころぶ。
「サンキュな」
いつの間にかフェリィのもとに近づいてきていたテキスがささやいた。
「?」
不思議そうに彼を見上げると、テキスは視線を村人たちに向けたまま、フッと笑った。
「村の人たちが笑っているのは久しぶりに見たから」
「それは私のせいではないですわ」
「いや、あんたのおかげだよ。あんたが来なけりゃ、村人たちは王女やリクシュの正確な情報を得ることはできなかったろ。――希望みたいなもんなんだよ、王女は」
「希望……」
「そう。リクウェアがこんな状態になっても、俺たちはまだやっていけると思える。――いや違うな…。王女のためなら生きなくちゃいけない、そう思えるんだ」
「――それは、ルリアが王族だから…ですか?」
「いや」
テキスは即座にそれを否定した。
「王女が戻ってきたとき、この国がなかったら、俺たちがいなかったら、王女は悲しむだろう?」
王女の笑顔が見たいからだ、と少し照れながらテキスは言った。
改めてルリアの人々への影響力の大きさを実感してしまう。
「ね、ルリアさまのお話、聞かせて!」
幼い数人の子どもたちがそばによってきた。その中の一番年長と思われる少女が小さな器を手渡す。中には少しばかりの果物が入っていた。
一目見て、それがチクラという果物であることは知れた。常日頃から、リクシュがおいしいおいしいと自慢げに話してくれていたからだ。
ありがとう、と礼を言うと、少女はにっこり笑ってフェリィの隣に腰を下ろした。
こうして夕食の間、フェリィは村人たちに囲まれていた。
森の生活での、ルリアの失敗談や、ふだんのリクシュの様子などを、フェリィは話して聞かせた。
村人たちはそれを聞いて「実にルリアさまらしい」「あいかわらずだな、リクシュは」と、笑いあった。
そんななかで、フェリィはクイントから自分に向けられるひたむきな視線に気づいていた。
初めて会ったときから、クイントは何か悲しげな目で自分をじっと見ている。何かもうひとこと言いたそうな、そんな感じを受けた。
しかし、クイントは必要最低限のことだけしかフェリィには告げない。そして不必要に近寄ろうともしないのだ。常に自分とは一定の距離をおいている。
彼の意図がいまいち理解できず、どのような態度をとったらいいのか分からず、ただただ彼から向けられる視線を受けていた。
「ところで、明日からはどうなさる」
フェリィの向かい側に座っていた長が尋ねた。
「とにかく、『力得し者』を探します。今はそれが先決ですから」
フェリィはそうだわと、思い出した。
「あの…他の村もこのような状態なのですか? リクシュの話によると、この国には結構な数の村があると聞いたのですが…」
「少し前は、だよ」
村人がため息をつきながら、呟いた。
「今じゃ、地上に残っているものは、あちら側についたやつらだけだ。──セヌエフに保護されてね」
「あいつら側じゃない人間もいるが、残っているものはほんのわずかだよ。あたしたちのように地下に村を移したっていうのは、ここを含めてたった五つだよ」
「五つ……?」
「他の村はなくなっちまったんだ」
それは思っていた以上に衝撃的なことだった。
ルリアが国を出てくる時点で、村は半分近くに減ってしまっていたと言っていた。だが、村は地上にあり、地下にいるのは一部の人間だったはずだ。
なのに、今ではさらに村は減り、たったの五つしか残っていないと言う。しかも多くのものがもはや地上を捨て、地下に移り住むしかなくなってしまっているというのだ。
「村だけじゃない。城の中だってわかったもんじゃない。王や王妃、王子たちが無事かどうかさえ今ではわからないんだ」
悔しそうにテキスは歯ぎしりをした。
(何のための近衛団だ。何のための剣だ。いざというときに、俺は全くの役立たずだった)
テキスはいまでもひどく後悔していた。
王子すら助け出すことができなかった。
王女だって、結局は自分が助けだしたのではない。王子たちの働きがあったからこそ、村に王女は無事たどり着くことができたのだ。
その間、自分はいったい何をしていたか?
異変が起こった日、ルリアを守りきることができず、敵を前にして意識を失うという醜態をさらした。その後もトゥティノに捕まったものの、城にとどまることを許されず、数日で追放され、その後は村に身を寄せるしかなかった。
父親の行方は知れず、母も屋敷で侍女が姿を見たのを最後に、杳として行方はわからなかった。が、自分ひとりではどうすることもできず、歯を食いしばって堪えるしかなかった。
そんなテキスの気持ちを知ってか、フェリィは静かにテキスに告げた。
「ルリアが言っていました。テキスはいつでも自分のことを理解してくれるよき理解者だと。そして人一倍責任感の強い人だと。だけど、どうにもならなかったことまで責任を感じて悩んでしまう所が、悪いところだって」
ホッホッホと長老が笑う。
テキスはきょとんとし、ついで大きな声を出して笑った。
(全く、王女には参ったぜ)
それは自分ではなく、ルリアにこそ言ってやりたいセリフだと内心思いながらも、王女とフェリィの心遣いがなんとも嬉しかった。
「では行くのだね。『力得し者』を探しに」
笑いの渦を割って、長は真面目な顔で尋ねた。ぴたりと笑いが止まる。
「───はい」
「かなり危険だと思いますが、覚悟はできておりますな」
「大丈夫です。私はそのためにここに来たのですから」
「――おれが付いていく」
それまで黙っていたクイントが一歩前へと出た。
村長は驚いたように目を丸くしたが、その顔は次第にほころんでいった。
「分かった。必要なものを用意させよう」
長の言葉と同時に、数人の村人たちがその場をそっと離れていくのが見えた。早速必要なものを揃えにいってくれたのだ。
フェリィは礼をいうと、クイントに向かって微笑んだ。
クイントはフェリィの笑みを見て、一瞬戸惑いの色を見せたが、フイッと視線をそらしてしまった。
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