蒼穹への扉
Novel
  message
 ・あらすじ
 ・目次
虹の彼方へ
さくら咲くころ
時のある場所
時のある場所2
失くした時代
わたるとり
こころのはざまで
恐怖の行方
墓守
かぞへうた
 Chara
  登場人物紹介
 Side
  座談会など
 Gallery
  らくがき&Flash
 Thanks
  いただきもの&差し上げたもの
 Diary
 BBS
 Link

 


 
BACK
 

 

 悲しげな風が吹いている。
 目の前には枯れた木々が、無残な姿で立ち尽くしている。
(ここが、最後の国…)
 以前リクシュから聞いたリクウェアは、緑あふれる美しい国だったはずだ。
 揺れる木の葉。その間から差し込む揺れる日差し。湖面に映し出されるは、真っ青な空と、そこにふわりと浮かぶ真白な雲。
 そして、そこで生きる優しい人々――。
 外の世界では戦が繰り広げられているのにも関わらず、リクウェアだけはその美しさを失わずにあった。
 たった半年も前にはそうであったはずだ。
 なのに。
 今、目前に広がる風景は――。
 たったわずかのあいだに、人間という生き物はここまで大地を傷つけてしまったのだろうか? 滅多にあの森からでていなかったフェリィには、衝撃的な風景だった。
(でも、今は…)
 フェリィは頭を振ると、教えられた村に向かった。
 枯渇した湖の辺にその村はあった。
 だが、ルリアが言っていたように、村はしんと静まり返り、異様な雰囲気を漂わせていた。
 夕暮れ時、普通であるならば、家々で夕食の支度が始められる頃だ。なのに、村にある家にはひとつも灯りが点っておらず、煙突から吐き出される煙も見当たらない。
 彼女は確か、一部の者たちは村の地下にかくまわれていると言っていた。だが、これはどうみても村人全員の姿が消えているとしか思えない。
(どうしたのかしら…)
 フェリィはとある家の扉を、そっと開いてみた。
 ギィィと、きしんだ音を立てて、扉は簡単に開いた。
 誰もいない────。
 どの家々もそうであった。
 人の姿はどこにも見当たらなかったのだ。
 フェリィは焦った。ルリアがリクウェアを出てから、いったい何が起こったのであろうか? 村人はどこに…。
「!」
 そのとき、フェリィは強い力で腕を引っ張られた。
「しっ」
 口を塞がれた。フェリィはそのまま引っ張って、近くにあった茂みに連れ込まれた。
「静かにしろ…」
 フェリィは頭の中が真っ白になった。
 抵抗しようとしたが、ぎっちりと背後から身体をつかまれ、それもままならない。
 着いたそうそう捕まるとは───!
 と、茂みのそばを数人の男が通りすぎていった。
「おい、本当に誰かいたのか?」
「そう思ったんだかな」
「お前の気のせいじゃないのか」
「そうかもしれんな」
 男たちの肩には、リクウェアではご法度であったはずの銃がかけられていた。
 歩くたびに、ガチャガチャとその銃がいやな音を立てていた。
「さすがにここにはもういないんじゃないのか? 戻ってくる物好きもいないだろ。帰ってくればどうなるかくらいあいつらだってわかっているだろうしな」
「まったくだ」
 はははは、と大口を開けて笑いながら、男たちはやがて遠ざかっていった。
 それを見計らったように、フェリィの口から手が離され、背後からぐいと彼女の身体を押さえつけていた腕から力が抜かれた。
 フェリィはさっと背後に後ずさると、腕の主の顔を見た。
「クイント…?」
「は?」
 少年は驚きの眼差しでフェリィを見つめた。
「───…」
「あなたはクイント…ですね?」
 確信に満ちたフェリィの言葉に、少年は我に返った。
「お前はだれだ? 何をしにここに来た?」
 少年はフェリィを鋭い瞳でねめつけた。
「クイント…ですね?」
「なぜおれの名を知っている?」
「ルリアの…」
 クイントはハッとしたようにフェリィを見た。
「ルリアを知っているのか!? あいつはリクシュと会えたのか?」
「ええ。いまは二人一緒にいます」
 あからさまなほっとした様子に、フェリィは心の内でくすりと笑った。
 ルリアとリクシュによるクイントの説明と、ここにいる少年とはずいぶんと違っているように思えたからだ。確かに目つきは鋭いし、外見は無愛想に見えないこともない。
 だが、目の前の少年はずいぶんと素直に感情を表した。
(それとも、それほど二人のことを心配していたってことかしら?)
 ずいぶんとかわいらしいこと、とフェリィは思わず頬を緩ませた。
 彼女の小春日のような柔らかな笑顔を目にしたクイントは、まぶしそうに目を細めたが、すぐにフイと視線をそらした。
「――こっちへ来い」
 慌てたように、ただそれだけ言うと歩きだす。
 フェリィはクイントに連れられて、ある一件の家のなかに入った。
 クイントは床に引いてあったじゅうたんを引っ繰り返すと、その下から扉がでてきた。その扉をあけると、階段が下の暗闇に向かって続いていた。
 これが、ルリアが言っていた場所なのだろう。この闇の向こうに、かくまわれている人々がいると、確かルリアは言っていた。
「足元、気をつけろ」
 クイントについて階段を降りたフェリィは暗い通路を歩かされた。そして、やがて現れた鉄の扉。
 クイントは5つ叩き、しばらく置いて3度続けて叩いた。
 
 ギギギ……
 
 内側からゆっくりと扉が開かれる。それと同時に飛び込んできた眩い光。
 思わず瞳を閉じたフェリィが、ゆっくりと双眸を開くと、目の前には息を呑むような光景が広がっていた。
「!」
村がある───。地上の村の地下にもう一つの村が広がっていた。
「上の村ではもう生きていけんので。ここが最後のわしらの生きる場所なんです」
 年老いた男が、一人の青年に支えられるようにしてフェリィを迎えてくれた。一目見て、彼が村の長であるのだろうとフェリィにはわかった。
「リクシュのお仲間だね?」
「はい」
 答えたフェリィに、長を支えていた黒髪の青年が間髪いれずに訊ねた。
「王女は?」
「ルリアなら無事です。いまはリクシュと一緒にいますから」
 ほっとしたように彼は胸をなで下ろした。
「テキス、ですよね?」
「ああ」
「ルリアが心配していました」
 俺のことより、王女のことの方がよっぽど心配だったのに、とテキスは苦笑した。相変わらずのようだな、と。
 長も嬉しそうに頷くと、家の中へとフェリィを招き入れる。
 こうして家の中に入ってしまえば、そこは外にある家とさほど変わりはない。土の香りがするということ以外は。
「ルリアは働けなくなった者や幼い者を匿うために、地下に住処が用意されていたと言っていました。でも――」

 

 
BACK
 

▲このページのTOPへ