蒼穹への扉
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 西の空が赤く染まっている。
「クイントが生まれ育ったトルキアって国はね、何十年にもわたって長い間戦争をしていたんだ。もちろんクイントが生まれたときも戦争の真っ最中だっただろうね。トルキアにはこんなに静かな時なんてなかっただろうし、村の男たちはみんな戦争のために徴兵されたんだ。お父さんの顔すら見たことがないかもしれない子供たちだっていただろう」
 毎日毎日人々は怯え暮らしていて、いつ訪れるか分からない死をただ震えて待つしかなかった。
 そして、そんな戦ばかりをしていたトルキアは、とうとう人が生活していけないほど荒れてしまった。緑は長い戦争のために枯れ果て、荒野だけが目前に広がっているだけに――。そして、彼らは自分たちの故国を捨て、この国に来なくてはならない羽目になってしまった――…。
 クイントは、ルリアたちには想像もつかないほど、辛く悲しい思いをしてきている。それだけに自分たちを信じて心を開いてくれるまで、少し時間もかかるだろう。焦って、かえってクイントに不信感を、そしてもう二度と悲しみを与えてはならない。
 リクシュは淡々とした口調で一言一言区切るようにルリアに話して聞かせた。

「ルリア…」
 リクシュが驚き、ルリアの顔を見つめる。
 何故だか分からない。無意識のうちにルリアの明るい緑色の瞳からは一筋の涙が流れている。
「いやだ…、なんで…あれ、とまんない」
夕空
 

もうルリアの涙はぽろぽろと次から次へ頬を伝ってゆく。
――知らなかった。自分はこの世で最も幸福なのだと…。他のどんな人よりも幸福なのだと…。父も母もそして兄もいる。食べるのに困ることもない。着る物も、住むところにも不自由しない。そして戦争に怯えて暮らさなければいけないということもない…。
 だけどそんなルリアの生活とは反対に、この国の外の世界では、親の顔も知らず、幼いころから戦争に怯え暮らしてきた者もたくさんいる。
 平和の中で育ってきたルリアには無縁の世界。話でしか聞いたことのない外の世界のこと。あまりに自分は外のことを知らなさすぎた。いや、知ろうという努力もしなかった。与えられた平和を当たり前のものとして、受け取り、その平和がどんなに大切なものかすら考えなかった。
「わたし…ばかだ…何も知らずにクイントにつきまとって…」
「ルリア…」
 リクシュはなんと応えてよいか分からず、目を伏せた。
「――ありがとう、リクシュ。もうここからは一人でも帰れるわ」
「――ルリア…」
「え?」
「いや、なんでもない」
 ルリアはいつになく寂しそうなリクシュの瞳が、心に引っ掛かりながらもリクシュに別れを告げ、城に通じる地下道の入口目指して走った。
 ルリアの姿が見えなくなったあと、リクシュは腰にさしてあった笛を取り出して口にあてた。
 笛の音は、まるでリクシュの心のように物悲しげな夕空に吸い込まれていった。

 

 
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