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少し長めの前髪が、風に揺れる。クイントはいつもその前髪で右目を隠すようにしていた。詳しいことはルリアにはわからなかったが、どうやら傷ついた右目を人目から隠しているようであった。
ルリアは湖の水面に視線を移した。太陽の光が、水面で心地よげに踊っている。
「嫌なこととかあると、わたしもここに来るの。そうすると心が落ちつくのよ」
ルリアはそういうと、抱え持っていたバスケットの蓋を開けた。
「ふ−む」
いつの間にか、背後に笛を吹くのをやめたリクシュが来て、バスケットの中を覗き込んでいる。
「パンが三つに、ジュ−スと――あ、クチラまで入ってる!」
「リクシュ――あなたも食べる気?」
「あたりまえじゃん。だって、三ついれてくれたってことはクイントと、ぼくとルリアの分で、ちょうど三つだよ」
「リクシュ、ひょっとして朝、食べていないの?」
「ん?」
「だって、まだお昼までずいぶんあるのに」
う−んとリクシュはお腹をさする。
「朝、ね。起きたら約束の時間だったんだ」
はははと照れながら笑うリクシュに、ルリアは呆れてふうとため息をついた。それと同時にルリアのお腹がぐうと鳴る。
くっくっとリクシュは声を殺して笑った。
「ルリアだって、お腹鳴っているじゃない。朝は?」
リクシュの問いにルリアは胸を張って答えた。
「食べてなんかいられなかったわよ。朝起きてから、母様に引っ張られてず−とスエレナの衣装合わせ手伝っていたんだもの」
少なくとも、リクシュと違って寝坊では無いことを強調する。
そうしてルリアはパンを一つ取り出すと、まずリクシュに手渡し、そしてもう一つを取り出すとクイントの目の前に差し出した。
「さ、食べて。クイントだって朝から何も食べていないんでしょ?」
クイントはむっとしたようにルリアを見た。
「――相変わらず、物好きなやつだな」
「食べてくれるまで、今日はクイントの側から離れないわよ」
「――…」
自分の横に座り、にこにこしながら自分をみている少女の姿をみて、クイントはしぶしぶパンを受け取ると、それを口に運んだ。
それを見届けてから、ルリアは今度はジュースを取り出し、中に一緒に入れておいてくれたコップに等分に分けて注いだ。並々とジュースが注がれたコップを手にし、リクシュは満足げにそれを飲み干した。
このジュースは村でとれたブドウから村人たちが作ったものだった。この甘酸っぱいブドウのジュースがルリアは大好きだった。もちろん、パンも村人たちが栽培した小麦から作ったものだ。
「ルリア、クチラちょうだい」
「なに?もう、パン食べちゃったの」
「うん」
ルリアはリクシュの食欲に半ば呆れながら、バスケットの中からクチラを一つ取り出すと、リクシュの差し出された手に乗せてやった。
クチラはこの村で栽培している果物の一つであり、このリクウェアにしかない珍しい食べ物である。緑色をしたそれは、一見、葉っぱと区別がつかないほどであり、大きさはオレンジくらいで、その緑の皮をむくと、中からは薄いピンクがかかった実がでてくる。実の中心にある種の周りに、プルプルと弾力性があるその実がついており、そのままかぶりついて召し上がれ、という代物であった。肝心の味のほうはというと、これもまた最高のものであり、口に含むと甘味がふわっと広がる。
リクシュは丁寧に手で皮をむくと、がぶりとかぶりついた。
「リクシュみたいに、美味しそうに食べてくれる人に食べられて、クチラもきっと幸せでしょうね」
「それがクチラの幸せなら、ぼくはいくつでも食べるよ」
「わたしの分まで食べる気?あげないわよ」
そういって、ルリアはジュースを一口飲んだ。そうして、ちらりとクイントを横目で見る。クイントはパンをかじりつつも、顔は湖の水面に向けられていた。
瞳は湖に向けられている。でも、見ているのは湖ではない――ルリアはいつもそう思う。クイントが見ているのはもっと遠くだ。湖の中に何を見ている?
「ね、クイント」 |