村へは正門から出ると、どうしても街の大通りを抜けなければならなかった。それに比べて、この地下道を抜ければ、街を囲むようにしてある森の中に出、細い道を駆けていけば村までは一本道であった。
それに、ここは何よりも、父と母に見つからずに城を抜け出すのには恰好の通路であったのだ。
しかし、それは両親に外の世界へ出ることを禁じられているということではない。これはルリア自身の気持ちの問題であった。自分自身の身分柄、外へ出掛けるともなるとおそらく供の者が少なくとも一人はついてくるだろう。
ルリアはそれを嫌っていたのだ。
自分がこの国の王、ティタニアの娘であるということを忘れたことはない。それを誇りにも思っている。だが、村へ行くときだけはその思いから少しでも解放されたかった。
自分の父の言葉一つ、行動一つがこの国を動かしている。そして自分自身の一挙一動が国の民に与える影響もルリアは幼いながらよく分かっていた。
それ故、ルリアにとって、王の娘という立場は誇りではあったのだが、同時に重荷でもあったのである。村へ行くようになってから、その思いはますますルリアの肩に重くのしかかるようになっていた。それなのに、自分を監視(とルリアは思っている)する供の者などついてきたら、息が詰まってしまう。
そうして、ルリアは何日かおきに、この地下道を使って外へと抜け出していたのであった。兄のハートレイやテキスは知っていたが、それを他のものに言うこともなかった。ただ侍女のスエレナだけは毎回のようにルリア捜しに追われ、少々うんざりしてはいるようであった。だが、やはり彼女も敢えてルリアを止めることはしなかった。
どのくらい地下道の中を走ったときであっただろうか。前方から美しい笛の音が聞こえてきた。そして、それと同時にだんだん前方が薄明るくなってきた。出口はもうすぐだ。
ルリアの顔が綻んだ。何日ぶりだろう、城の外に出るのは…。
足を早めたルリアはやがて地下道の外へと抜けた。今日も青空はどこまでも続き、太陽はルリアを見下ろし、この森を優しく見守り続けている。爽やかな薫風がルリアの頬を撫でてゆく。
耳を澄ませば、小川のせせらぎが耳をくすぐる。暦の上ではもう春を過ぎ、初夏の訪れを告げていた。陽射しももう、春の柔らかいものではない。
ルリアは大きく深呼吸をした。狭苦しい城のなかの空気より、やはりこっちの空気のほうが何倍も美味しい。胸一杯に吸い込んだ空気はルリアの心の奥まで広がっていった。そうして、ルリアは笛の音の主を探してきょろきょろと辺りを見回した。
「ルリアッ!」 |