(怖いんだもの…)
何がそんなに怖い?
(全てが怖い。思い通りにならない「現実」が怖い。何を考えているか分からない「他人」が怖い)
──違う…。
(何が違うっていうの)
違う。私が本当に怖いのは「現実」でも、「他人」でもない。私が本当に心から怖がっているのは「自分自身」。うまくいかない「現実」を「他人」のせいにして、何もしない私自身。心で思っていても何もできない自分。
光の中心には小さな泉があった。真っ白な光を放っているのは、その泉だった。私は泉のほとりにしゃがみこんだ。そうして泉の水に触れる。ひんやりとしてその水は、私の心の奥にまでしみ込んでいった。
──帰って…きて…──
揺れる水面に映った一人の少女の顔。
──帰ってきて、ここに。あなたのいるべき場所はそこではないはず…──
聞き覚えのある声。見覚えのある顔。
私は少女の声に引きずられるかのように、腕を泉に向かって伸ばした。
私は逃げているだけ。「自分自身」から。このままでは、いつか私は思ってしまう。「こんなの私じゃない。こんな私なんて大嫌い」と。私は自分自身に「私」を否定されるのが怖くて逃げ出したんだ…。何もないここに。
──怖がらないで。あなた自身を。信じて。あなた自身を。裏切らないで、あなただけは。あなたただけはあなたを信じて…。きっと、きっと大丈夫だから…──
パシャン…
泉に映る少女の腕に触れたとたん、私の身体は光に包まれた。まぶしさのあまり、まぶたを閉じる。
「おかえり…」
私を強く引き戻す力が消えた。それと同時に近くで聞こえる声。瞳を開くと、私の目の前には、泉に映った少女がいた。
私は手を伸ばす。しかし、私の手は少女に触れることなくパタンと落ちた。
「おかえり…」
ふわりと少女は笑った。
「──もうひとりの…」
少女の身体がすうっと消えていく。
「待って」
少女に向けた私の言葉は、強い風にかき消された。
「!」
つうっと頬を伝う一筋の涙。私はあわてて頬を擦る。
私の瞳には真っ白な天井が映った。
ここは…?
腕を顔の前にゆっくりと上げる。私の腕。白く、今にも折れそうなほど細い腕。
──ああ、そうだ。ここは私の生きている世界。ここが私の「現実」。
暖かい春の陽射し。白い部屋の真っ白なカーテンをなびかせる風。春の到来を告げる草花の香りを運んでくる。
ゆっくりと私は瞳を閉じる。
まぶたの裏には先ほどの少女の笑顔が浮かぶ。
「私」から逃げた私は、あの少女によって現実に連れ戻された。
もうひとりの──「私」に…。
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