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墓守

 
 
 


ひょおおおおおお……


寂しげな風だけが荒涼とした大地を駆け抜けていく。
ごつごつとした岩だけが転がるこの場所に訪れる者はいない。人はこの地を「死国へ通ずる場所」と呼ぶ……。
昔はここにも一つの町があったという。
だが、それは遠い昔のこと。今では誰もこの地に近づこうとはしない。
その理由はだれも知らない。知っているのは荒野を駆け抜けていく風だけかもしれない。


男は一人考えていた。
頭上に広がる春の霞がかった空を見上げながら思案していた。
「己は如何にして『己』を守ることができるだろうか」と。
男が考えていることは、決して現在のことではない。これから起こりうる未来についてである。
この世は決して平等とはいえない。貧しい者がいる一方で、裕福な者がいる。戦で苦しむ人がいるかと思えば、平和に心穏やかに日々を送る人がいる。
だが、その中でたった一つ、誰にでも平等に訪れるものがある。それが「死」だ。
もちろんこの男にも。それは今この瞬間かもしれぬし、ずっと先のことかもしれない。だが、確実にいつかは訪れるものだ。
男はふと視線を落とす。
その先にあるのは、一つの石のかけら。男は腰をかがめてそれを広い、左方にそびえる大きな岩をちらりと見やった。
そこかしこに転がる小さな石は、もとはその岩の一部であったであろうことは、周りを見れば一目瞭然だ。
草が生い茂るこの地に、不自然におかれた大きな五つの岩。
かつてこの地を治めていた者の娘が若くして死んだとき、彼女を偲んで父親がつくった墓だと伝えられている。
巨岩を入口に、地下には長い玄室までの細い道。その最奥には人三十人はゆうに入るであろう広さの部屋がある。中央には黒く磨かれた石で作った立派な棺を置き、そこに横たえられた若い娘の遺体。
父は娘が死国でも生活に困ることがないようにと、財を尽くして副葬品を用意させたという。
それらが盗まれることがないよう、入口から玄室までには至る所に罠が仕掛けられ、盗人から守るようにされていた。
だが、こういった墓が過去いくつも盗人、あるいは研究心あふれた学者たちの手によって外の空気に再び触れることになったように、この娘の墓も同じ道をたどった。
その結果が現在男の目の前にある墓の姿である。学者たちの手により掘り起こされたのであれば、それなりの扱いもされようが、どうやらこの墓は盗人の被害にあったらしい。なんとも無残な姿をさらしている。


こうはなりたくない――。


男は切実にそう考えた。
今はまだいい。自分は単なる貧乏人で、死ねばただの骨だけが生きてきた証として眠るだけなのだから。
だが、これが数百年、数千年たったらどうなるのだろう。
ひょっとしたら歴史的価値がでてきて、研究のためと掘り返されるかもしれない。
もしくはその価値の高さに目をつけた盗人に盗まれるかもしれない。
そうなったら、自分の骨も無事とは限らないだろう。
そんなのはごめんだ。
今、目の前にあるこの墓のように、死んだ後、人の手により掘り返されるようなことはされたくない。
ではどうすればいい?
墓ごと隠してしまう、という方法があるかもしれない。そうすれば、墓としてそこにあるより荒らされる確率は数段減るだろう。
しかし、それでは意味がない。
墓は墓としてモニュメントの機能を持ってこそ意義があると男は考える。
その機能を失った墓なぞ墓とはいえぬ。

 
 
 
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