そうして男は一つの妙案を考えだした。罠も駄目、墓を隠すことも駄目、ならば墓守を置けばいいと。
もちろん、人の寿命などせいぜい数十年。まさか自分で自分の墓を守るわけにもいくまい。ましてや他人に任せるわけにもいかない。
人に代わる「何か」で墓を守る。墓を掘り起こさせないために。
男は己の考え付いたことに至極満足したように何度も頷いた。
――とある国のとある村のお話。
村の外は広い荒野が続いていた。
緑少なく、岩と土だけがどこまでも広がる大地。決して裕福ではないが、村の者たちはそれなりに日々の暮らしに満足していた。
そんな村にある日突如として奇妙な音が聞こえてきた。
村から1キロほど離れたところにある大きな岩場。そこからその音が聞こえてくるらしい。人が泣きすさぶような悲しい音。
ヒューヒューと、その音は村人たちにまるで伝えたいことがあるかのように聞こえ続ける。
村人たち正体のわからぬ音に怯え、いつかきっとやむに違いないと、不確かな未来に望みを託していた。
しかしそんな中、勇敢な若者たちがその音の正体を確かめようと言い出した。
村で唯一都で学問を修めた物識りな若者を中心に、彼らは村人たちに己の考えを主張した。
この音は決して噂されているような類のものではなく、理論的に説明できることに違いないと。それなのにわけもわからぬまま脅えているなど、なんと愚かなことだろうかと。
村人たちが止めるのも聞かず、血気盛んな年頃の男たちはそれぞれ鍬や斧といった武器になるそうなものを手に、岩場へと向かった。
岩塊に近づくにつれ、その音は大きくなっていく。そうして、あと数十メートルとまで迫ったところで、その叫びは最大のものとなった。まるで男たちを死の国へと引き込もうとしているかのような恐ろしい声。加えて誰かの歯の音が聞こえてきた。
そうして男たちの不安と恐怖も最大のものとなり、一人が駆け出したのをきっかけとし、みながわめきながら我先へと逃げ出した。
その後、村ではその音について様々な噂が流れ始めた。
ある者はあれは昔、悲恋の末、自ら命を絶った乙女が恋人を慕ってなく声だと言った。ある者は、その昔神が封じ込めた魔物が這い出ようとうなる声だと言った。あるいは、捨てられた子どもが、親を慕って泣き叫ぶ声だと言った。だが、どれも確たる証拠もなく、噂だけが次から次へと流れるだけだった。
だがもう決してあの場所へ音の正体を確かめに行こうという気概のあるものはいなくなっていた。
声の謎を解き明かして見せると息巻いていた村一の知識の君も、せいぜい風が岩々のどこかの隙間に当たって音を立てているのだろうと結論を出して片付けてしまった。
しかし、地の底から聞こえるようなその声は決して絶えることはなかった。ついに村人たちは我慢できなくなり、あるいは地獄へ引きずり込まれる前にと、次第にこの地を後にしていった。
そうして村は村として存在することができなくなり、やがて荒野に呑み込まれていった。
ひょおおおおおおおお……
今日も荒野では満足げに吹いている。
こうして男の墓は誰にも荒らされることなく、朽ち果てるまでその地に「墓」としてあり続けていたということだ。